AKB48新総監督が(発行部数累計2300万部)『キングダム』から学ぶリーダー論

累計2300万部突破の大ヒットコミック『キングダム』を読み解き、乱世を生き抜くリーダーの条件を探る――。経営コンサルタントの長尾一洋氏が、著書『「キングダム」で学ぶ乱世のリーダーシップ』を出版し話題を呼んでいる。総勢400名を越えるAKB48グループの2代目「総監督」を務める横山由依が、長尾と共にリーダーシップについて語り合った。

取材・文/吉田大助 撮影/佐賀章広 ©原泰久/集英社

引き継ぐ大変さを実感しています

横山
本の題名を伺った時に「もしかしたら……」と感じていたんですが、序章の数ページを読ませていただいた瞬間、「この本は私のバイブルになる!」と思いました。
長尾
うれしいですね。『キングダム』には「リーダーの思いを引き継いでいく」というテーマがあるんです。信という少年は、大将軍・王騎の「国王が掲げる中華統一の理想を叶えたい」という思いを引き継ぐことで、リーダーとして成長していきます。横山さんが今それと同じ状況にあるのかもしれないということは、アイドルに詳しくない僕の耳にも入っています(笑)。
横山
はい。先日グループを卒業した高橋みなみというリーダーから、「総監督」という肩書きを引き継ぎました。本の序章で、いろいろな企業の2代目、3代目の方々を集めた勉強会をされてきたと書いてありました。私もぜひ参加したいです(笑)。初代にしかわからない苦労もありますけど、引き継ぐ人も大変なんだなってことを、今まさに実感しているところなんです。
長尾
初代、企業でいうところの創業者は、自分のスタイルで思うままに自由にやれる。ところがトップの立場を継いだ人は、「初代はこうだったのに」と常に比較されるんです。
横山
そうなんです! 人からも比べられるし、自分も比べてしまいます。「たかみなさんはこうだった」「たかみなさんが前にやっていたことが正解なんじゃないか」と。
長尾
そうやって悩んでいる姿はきっと、周りから頼りなく思われちゃいますよね。
横山
よく「頼りない」っていわれます(苦笑)。
長尾
でも大丈夫。「やるしかない」って覚悟を決めれば、誰もがリーダーになれるんです。……この本で一番伝えたかったメッセージ、早々と伝えてしまいました(笑)。

リーダーは完璧……じゃなくていい!

横山
本では「リーダーの条件」を10個挙げていますね。
長尾
『キングダム』は、リーダーシップにまつわる事例が豊富なんです。10個で打ち止めにするのがひと苦労(笑)。
横山
例えば「人を巻き込み同志とできるか」、「率先して範を示せるか」、「前向きさ、明るさを持っているか」……。ほんまにそのとおりだと思うことばっかりでした。
長尾
信は奴隷の身分からスタートし、大将軍まで上り詰めようとしている。何も持たない最下層からはい上がっていく、成り上がりの面白さが『キングダム』の大きな魅力です。その過程で、自分の部隊をまとめるための、リーダーシップの手本となる将軍たちと出会うことになる。横山さんはどうでしたか?
横山
AKB48は、グループの中でチームがいくつかに分かれているんですが、そのチームごとにキャプテンがいるんです。私がキャプテンになったのは、4つ目のチームのときなんですね。それまでにいろんなキャプテンを見てきたんですよ。NMB48という姉妹グループと兼任で活動をしていたときは、山本彩ちゃんというリーダーを見ることもできました。「いろんなリーダーの形があっていいんだ」と知ってからキャプテンになれたことは、すごくよかったと思っています。ただ、「総監督」ってなるとひとりしか見ていないから、私もたかみなさんのマネをしなきゃいけないと思ってしまって……。
長尾
やっぱりそこの問題にぶつかりますよね。たかみなさんは、偉大なリーダーだったんだ。
横山
だから私が総監督になったばかりの頃は、全然うまくいっていなかったです。それなのに、強がっていたんですよ。「大丈夫?」って周りに言われても、「全然大丈夫」って言ってて。でも、ある時メンバーが「弱音も吐いていいんだよ」って言ってくれて……。弱さを隠し続けるのが強さじゃない、弱さを出せるのも強さなんだって分かったんです。
長尾
そこから変わった?
横山
変わりました。たかみなさんのマネでは勝てない、と思ったんです。
長尾
だって、誰もたかみなさんにはなれないんだから。
横山
そうなんですよね。たかみなさんは、なんでもできるリーダーでした。背中で引っ張るしスピーチも完璧でカリスマ性もあって、先陣を切るっていう感じのリーダーです。でも私は、できないことはできないって正直に言う。そうすることで、自分ができないところを周りがカバーしてくれるっていうスタイルに変わってきたんです。
長尾
信も自分ひとりの力で成り上がっていったんじゃありません。助けてくれる仲間の存在が大きかったんです。リーダーは、完璧じゃなくてもいいんですよ。自分のダメなところ、できないところを補ってくれる人がそばにいてくれればいいんです。『キングダム』で言えば例えば河了貂は、若くして軍師の才能を持った少女です。信を頭脳で支えてくれる。羌瘣は、戦士でありながら客観的な分析力にも長けています。渕という副長もまた、戦場で頭に血が上ってしまった信に、ズバッと厳しい進言をしてくれるんですよ。
横山
今のお話を聞きながら、いろんなメンバーの顔が浮かんできました(笑)。
長尾
『キングダム』が面白いのは、彼らひとりひとりもまた、自分の部下を持っているリーダーなんです。しかも、各キャラクターの個性に応じたリーダー像が描かれるんですよね。自分に合ったリーダー像を見つけていく、という楽しみも『キングダム』にはあると思うんですよ。

思いを伝えなければ思っていないことと同じ

長尾
横山さんがリーダーシップに目覚めた瞬間って、いつなんでしょう?
横山
最初の頃は「AKB48が大好き」って気持ちだけで、毎日ただ楽しく過ごしていました。でも、たかみなさんと同じチームになって、すぐ近くでお仕事を見る機会が増えたときに、「この人を支える役割をしたい」と思い始めたんです。ああ見えて、たかみなさんって緊張しいで、スピーチの前に嗚咽していたりするんです。このグループをもっと良くするためにと頑張って、こんなにもプレッシャーを感じている人を助けたいなと思ったのが、目覚めたきっかけだと思います。
長尾
つまり、強いリーダーの、強さの中にある弱さを見つけた。さっきの横山さんの話と共鳴していますね。興味深いなと思うのは、『キングダム』も同じ構造を持っているんですよ。信にとって、泰の若き国王・政は、親友を死に至らしめた仇敵なんです。ところが、政の弱さを知ることで、支えようと思うに至る。さっきまでお話を聞いていて、AKB48におけるたかみなさんは王騎なのかなと思っていたけど、やっぱり政なのかもしれない。横山さんは、信ですね。
横山
信なんや、私!(笑)
長尾
信は百人の部下をまとめる百人将、三百人将……と登り詰めていくんですが、横山さんがまとめなければいけない人数も、すごく多いんですよね。
横山
AKB48グループの全メンバーだと、400人以上います。
長尾
若い子が多いんだろうと思うんですが、時には厳しく叱ることもあるんですか?
横山
はい。ただ、単にきつく言うだけじゃダメで、そこには信頼がないと伝わらないと思っています。コミュニケーションってすごく大事だなと思うんですよ。だから最近、AKB48のメンバー一人一人との面談を始めたんです。その子たちが何を考えているのか、どういう夢を持っているのかっていうのを知っておきたくて。やっぱり、外から見ているだけじゃ分からないことっていっぱいあるじゃないですか。
長尾
リーダーが部下にはっきりと関心を示すことで、部下は「自分を見てくれているんだ」と思える。チームの士気も、自然と高まると思います。自分でそうしようと思ったんですか?
横山
私が「やりたいです」と言って、スタッフさんにスケジュールを組んでもらいました。リーダーっていう肩書きを持ってしまうと、周りが意見をぶつけづらくなりますよね。だとしたなおさら、リーダーからぶつかっていかないと、何も生まれないんじゃないかなと思ったんです。
長尾
僕はこの本の中で、信の部下愛を引き合いに出しながら「思っているだけでは伝わらない。言葉にし、手を触れ、伝えなければ部下愛は伝わりません」と書きました。こっちは「君のことを見ているよ」と思っていても、相手がそう思ってくれなければ、意味がないわけですよ。
横山
思いを伝えなかったら、思っていないのと一緒になっちゃいますもんね。
長尾
そうなんです。若いのに、非常に視野が広い。素晴らしいリーダーです。
横山
最近は、自分たちが頑張らなかったら、周りにいるスタッフさんもご飯を食べれなくなるんだなと思っています。支えてくれる周りの人たちのためにも、「私たちは絶対売れなきゃ!」って。
長尾
そんな気持ちまで抱えてらっしゃったんですね。僕はリーダーの条件の七つ目として、「すべてを背負う覚悟はあるか」と書きました。リーダーにその覚悟があるからこそ、部下は付いてくる。横山さんも、まさにそれですね。ただ、あんまり抱え込みすぎないでくださいね(笑)。
横山
一人で背負い込んだらいっぱいいっぱいなんですけど、溜まったものは、周りのみんなにぶちまくので(笑)。だから、バランスは取れているのかな、と。
長尾
なるほど、それは本当に素晴らしい!(笑)

アイドルも起業家も戦国武将も「戦ってきた」のは同じ

横山
実は、少し前から「アイドル戦国時代」と呼ばれているんです。
長尾
アイドル界も「乱世」なんですね(笑)。でも、状況が安定していないからこそ、出番があるというか、やりようがあるじゃないですか。AKB48でもきっと、卒業する人がいるからこそ、残った人にチャンスが回ってくる確率が上がる。
横山
そうですよね。そう思うと、メンバーの卒業が相次いでいる今の状況も、ポジティブに捉えられる気がします。私は、AKB48のライバルは、昔のAKB48なんじゃないかと思っているんですよ。「あの頃がピークだったね」と言われる頃のAKB48を、今のメンバーで超えたいんです。
長尾
それはいい目標だと思いますよ。信たちの若い世代もね、王騎を含む「六大将軍」の時代を超えようと、命がけで戦って成長しているところなんです。
横山
その場合、どう戦っていけばいいんでしょうか。
長尾
今いるメンバーの思いを受け取るだけでなく、過去に卒業した人たちなどいろんな人の思いを受け継ぐ、それをプレッシャーと感じるんじゃなく「受けて立つ!」という気持ちが力になっていくんじゃないでしょうか。私が経営コンサルタントとして30年来見続けてきた、企業の2代目、3代目のリーダー達も、そうやって偉大な先代を乗り越えていきましたよ。
横山
何千年前が舞台の、『キングダム』の信と王騎の関係もそうですよね。
長尾
そうそう。その他にも、王騎の副官で、騰という非常に濃い顔のキャラクターがいます。王騎がいなくなってしまった後も、騰は自分の軍団を率いて百戦錬磨の活躍をするんですね。自分はあの王騎をずっと支えていたんだという過去が、現在の彼にとって自信の源になっているんですよ。もしも自分が弱いと思われてしまったら、「実は王騎もそんなに強くなかったんじゃないか?」と思われてしまう。王騎に汚名を着せるようなことは絶対避けたいから、自分は全体負けられないんだというモチベーションに繋がっているんです。
横山
そういうことなんですね!!  長尾さんの本を読んでから『キングダム』を読むと、見え方が変わりそうです。
長尾
ぜひそう読んでいただけると嬉しいです。
横山
結局、どこも一緒なんですね。アイドルもそうだし、企業もそうだし、戦国時代も一緒。「みんなそうやって戦ってきたんだ」と思うと、少し気が楽になりました。
長尾
本質は一緒なんです。いつの時代であれ、戦っているのは同じ「人間」ですから。
横山
たかみなさんが卒業して、本当の意味で2代目総監督としてひとり立ちするタイミングでこの本を読ませていただけて、本当にうれしかったです。「やるしかない」と思って、乱世を戦います!

グループメンバー300人以上を率いる総監督 横山由依

1992年2月8日生まれ、京都府出身。チームAキャプテン(9期生)
ニックネーム=ゆいはん
昨年12月8日より、AKB48総監督に就任。

『キングダム』で学ぶ乱世のリーダーシップ著者 長尾一洋

1965年生まれ、広島県出身。NIコンサルティング代表取締役、中小企業診断士。
経営コンサルタントとして「孫子の兵法」の活用を提唱。