週刊ヤングジャンプ新人漫画大賞スペシャルコンテンツ 原泰久先生特別インタビュー

ヤングジャンプ新人漫画大賞の創設を記念して、第一回審査員の原泰久先生に突撃インタビュー!
原先生ご自身の新人時代の話や、連載デビューをしたアシスタントさんたちに伝えていたこと、新人作家さんに向けてのエールなど、ここでしか聞けないお話をお聞きしてきました!

――原先生の新人時代についてお聞かせいただければと思います。漫画家を目指すと決めたときに始めたことや、プロの漫画家になるためにやっていたことはありますか?

新人の頃、勘違いをしていたことがあって、賞を受賞した後、すぐにプロになれると思っていました。大学生のときに漫画を描き始めて、意外と早く賞を取れてしまって。ただ、その後はなかなかうまくいかず、そこからちゃんと漫画を研究し始めました。

当時住んでいた場所は田舎だったし、当時はネットもなかったので、漫画の描き方があまり分からなかったんです。自分では気づいていなかったのですが、絵のレベルが全然プロに達していなかったので、画力の面ですごく苦労をしましたね。一方で、僕は話作りにすごく重きを置いていたので、映画をたくさん見て、こう作ろう、ああ作ろうと常に考えていました。それがひとつ、大きな武器になったのかなと思います。

――お話作りの部分に重きを置いていたということですが、どんな練習をされていましたか?

最初はたくさんネタを作っていたんです。大学生のときには歴史モノから、近未来モノ、現代のヤンキーモノにいたるまで100本以上はプロットを作っていたと思います。誰に見せるわけでもなく、起承転結を考えて、とにかくたくさん作っていました。それが訓練になって、知らないうちに上達につながっていたのかなとは思います。

絵柄に関しては完全に我流で、自分の絵ってあんまり誰かの影響を受けたということはない気がしています。ひたすら自分で描いて、試行錯誤しながらやってましたね。

――原先生のもとでアシスタントをされていた方が多数連載デビューされていらっしゃいますが、普段アシスタントの方々にお伝えしていることなどはありますでしょうか。

まず、数字にこだわろうと伝えています。率直に言えば「売れる」ということですね。売れるというのはお金のことではなくて、漫画を多くの読者に読んでもらうということです。僕は偶然売れる人ってあまりいないと思っていて、実際に売れている人は売れるぞという強い気持ちがあるからこそ、結果が出ているのではないかと考えています。

皆さんがプロになったときは、同じ『ヤングジャンプ』という雑誌の中でやっぱりアンケート一位を目指すべきだと思うんですよ。ちょっと連載が続けばいいかなとかではなくてどうやったら人気が取れるか、順位を取れるかという点にこだわったときに、出てくるアイデアが変わってくると思うんです。

もう少し面白くした方がアンケートが一票でも多く入るんじゃないかと考える。お話づくりをするときに分岐点が幾つかあるじゃないですか。そんなときにはより売れそうな方を選ぶ。

キャクターの動作ひとつとっても変わるんですよ、普通に無造作に何か、ものを取るシーンでも。どの瞬間をコマにおさめるのか、どんなアングルで描くべきかなど。意識の使い方ですね。

漫然と連載が続けばいいかなと考えていると、ディテールへの努力を怠りがちになってしまう気がします。絶対一位を取るとか、絶対数字にこだわるって思うと、一コマ一コマ、取りこぼさず描くように変わっていく。

すると、完成度が上がってきますよね。

だから、心構えとして、「売れる」と強く念じて描くのがひとつのコツですね。ただしこれは売れ線を狙うのとは少し違って、自分の描きたいものはしっかり持って、それをどう表現していけば「売れる」のかということを、常に考えるということです。

あとは、必ずネームを最後まで描こうと伝えていますね。

学生の頃、お伝えしたように僕はプロットをいっぱい作っていたのですが、それをネームにして読切をいっぱい描いたんですよ。アシスタントや新人作家さんを見ていると、最後まで描く人って少なくて、途中で投げ出してしまうケースが多いんですよね。これは面白くないって自分で判断してしまって。

ネームの力って坂道のように滑らかに上がるんじゃなくて、階段状に上がるものだと僕は思っています。急にグンと高まるポイントがあるんですね。そしてそのポイントは、物語を最後まで描かないと掴めない。途中でやめてしまうと、ずっと成長しないまま横ばいになってしまう気がします。不本意なネームでも最後まで描くことを繰り返すと、どこかで一気にステップアップするタイミングが来るので、苦しくても粘って最後まで描き切る習慣は是非つけてもらいたいですね。

そして、人に読んでもらって感想をもらうということですね。そこまでがセットです。これが結構大事で、意外と自分が気づいていない、作品の良いところがあるんですよね。ここがあなたの武器だよって人から言われて気づくこともあるし、こういうところで人は感動するんだと新たに発見もできる。なので、恥ずかしがらずに読んでもらうというのも大事ですね。

――原先生は新人の頃、作品づくりで悩んでしまうことやスランプなどありましたでしょうか。
もしあればその時の抜け出し方を教えてください。

僕はあまり悩むということはなかったです。悩んでしまうのは、描きたいことが明確じゃないからだと思うので、それこそ編集さんと深く話すべきことだと思います。

例えば、「この作品は何を表現したいんだっけ」と編集さんに聞かれて、「これは誰々に勝つ話です」って答える。また編集さんが「勝つことにどういう意味があるのか」と聞いてくる。そんな風に編集さんが質問したことを、描き手は全部答えられるようになるべきだと思っています。編集者に質問をされて「どうなんだろう」と答えが曖昧になってしまうのは、自分の中で描きたいことが明確でない証拠。主人公は何を思っているのか、どこへ向かっているのか。すぐに答えられるように、自分の中でしっかり考えることは大切ですね。

描きたいものが固まっていると、多分スランプにはならないんですよね。描きたいものがあれば、そこに向かうためにはこういうことをした方がいいですね、と逆にアイデアが生まれてくるので。

描きたいものが明確でないからこそ、何でもありの状況の中で「どうしていいか分からない」という状態になってしまうんじゃないかと思います。

――今、少し主人公のお話が出ましたが、魅力ある主人公やキャラクターを作るために気を付けていることや練習をしたことがあれば教えてください。

練習というよりは、どんどんネームを描いて実践していましたね。魅力あるキャラクターを作るポイントのひとつは、キャラにポリシーをしっかり持たせることです。ポリシーを持たせて、そこをディテールで補強していくイメージですね。

例えば編集さんに、「どうしてこのキャラ、ここでこういうことを言うんですか」と聞かれても、ちゃんとそのキャラのポリシーを掴んでいれば答えられるはず。そこがブレていなければ、キャラは魅力的になるはずなんです。実際に僕はアシスタントのネームを見るときにも、キャラクターの心情について質問することが多いですね。

――魅力あるキャラにはポリシーが必要だとのお話ですが、『キングダム』ではどのようにポリシーを設定してディテールを詰めているのでしょうか。

例えば将軍などは、分かりやすく勝つこと、出世すること、などをポリシーとしますよね。そこに付き従う者たちも、将軍を支えたい、などのポリシーがある。その上で、どうして勝ちたいのか出世したいのか。どうしてその将軍を支えたいのか、というディテールを作っていく感じですね。お金目当てでもいいし、ただ漫然とついていっているだけでもいいんです。リアリティを崩さずに細かく突き詰めていくと、意外と魅力的なものになるんですよね。

例えば、主人公の信は本当に分かりやすく「天下の大将軍」を目指しています。昔の『週刊少年ジャンプ』の主人公がベースですよね。元気で頭は悪そうで、でも強くてがむしゃらで、根が真面目で真っすぐという。

そこからスタートしたのですが、周囲のキャラと絡んでいく中で、ディテールがどんどん深まっていく。

松左という部下が死んだ際、周りがワーワー騒いでいるときに、信は「もう自分は泣いてきた」と伝えます。部下の死に対しては、こういう対応を見せるキャラ、というディテールです。そうやってエピソードを重ねることでどんどんディテールが重ね塗りされていって、魅力的なキャラクターに育っていくのだと思います。

編集さんとの会話で「ここでこのキャラがこう言ったら、あのキャラはこういうことを思いません?」みたいに聞かれて気づきがあったり、「いや、これはもっと深い意味があるんですよ」と返す中でディテールが詰まっていくことがよくありますね。打ち合わせの意義というのは、そこにあるんじゃないかと思います。

――先ほどは数字にこだわるというお話がありましたが、キャラクターを作るときにも“売れる”キャラクターを意識されていたりするのでしょうか。

そこはちょっと難しくて、「売れそうな」キャラクターを作るのは結構危険な気がしますね。形から入っちゃうと、そのキャラが何をしゃべっていてもセリフから何も伝わないということになりがちです。「売れること」と「何を描きたいか」というのは両方強く持っておかなくちゃいけなくて、「売れれば何でもいいや」は失敗する可能性が高いように思います。考えの順番としては、何か描きたいものがあって、それを売るためにどうするか、という頭の使い方ですね。

――ネームづくりに関して、分かりやすく、読みやすくするためにこだわっていることや、気にしていることを教えてください。

ネームに関しては起承転結への意識ですね。読切でも連載でも、この一話は「このテーマで」と決めて勝負する。連載なら「今週はこれを描きます」と。勝ちました、負けました、脱出できました、誰かを助けました、助けに行きます。何でもいいんですけど、何か一つのテーマで起承転結を作って楽しませるのを意識することですね。

中途半端に二つやろうとすると、起承転結がダブってしまう印象になるかも知れないし、起承で終わってしまうかも知れない。形だけでも、何かオチをつけて起承転結に見えるように意識していますね。

絵柄は、分かりやすく読めることに本当に気を遣っています。『キングダム』はただでさえキャラが多いし、戦場はごちゃごちゃしているので(笑)。技術的に一つ挙げるとすると、シーンの奥行きを見せる引いた絵を入れることですかね。引きの絵は描くのが大変なんですけど、カメラが寄ってばかりだと読みづらいところがあるので、要所で目線を変えるために必要です。見開きの全景などは本当に大変なので描きたくないなと思う時もありますが、分かりやすく読んでもらうために毎回頑張って描いています(笑)

――最後に、新人さんたちにメッセージやエールをいただけたらと思います。

描きたいものがあれば、それを最大限エンタメにできるように頑張って描いてみてください。
エンタメにもいろいろなジャンルがありますが、とにかく読者アンケートを一票でも多く取るためにどうすれば良いのかを考えると、ネームも作画も少しずつ精度が上がっていくので、そこは強欲に取り組んでもらえるといいんじゃないかなと思います。

新人賞に投稿される作品は、編集部内で読まれて、その得票で賞が決まると思うので、本当に少しの意識で結果は変わってくると思います。最初は難しいと思うけれど、細かいところまで思いを込めて描けるといいですよね。漫画賞を受賞した後は、編集さんと力を合わせて頑張ってください。

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