週刊ヤングジャンプ新人漫画大賞スペシャルコンテンツ 峰浪りょう先生特別インタビュー

ヤングジャンプ新人漫画大賞、第5回審査員の峰浪りょう先生に突撃インタビュー!
今年の春に入社した新人編集が、『少年のアビス』を連載されている峰浪りょう先生に「自身」の描きたいものの見つけ方やキャラクターの描き方、読者を魅了する演出の作り方について3つのアビスを伺っていく企画!

第1部:嗜好性の探求へ──。

好きという感情にヒビが入っていく

――新人作家さんの中には描きたいものが見つからないと悩んでいる人がいるように思います。そのような方たちに何かアドバイスを頂きたいです。

何が好きなのかを自己分析したほうが良いと思います。なぜこの作品を自分は好きなのかと考えてみたり、同じジャンルの中でもっと面白いものを探してみたりすると良いかもしれません。自分の嗜好を明確にすることが、描きたいものを見つけることにつながっていくと思います。また、好んで見る漫画や映画などの傾向が変化したと感じるなら、その変化した理由を考える作業も重要でしょう。自分の嗜好を気持ち悪いくらいに見つめることが大事だと思います。

――なるほど。

10代の感受性が敏感な時期に心に刻まれたものは大切だと思います。若い頃の集中力はとてつもなくて、私の場合は好きな本の内容を一言一句レベルで覚えていましたね。

――打ち合わせの中で新人作家さんの嗜好を見いだしてあげたいです!

編集者や友人、家族と話して自分が何を好きなのかを探っていくことは、もちろん大切だと思いますが、私は自分の嗜好を見つける作業は最終的には作家が一人で行うべきだと思いますよ。

誰かと話しているうちに少し嘘が混じることや、好きだった気がするなぁ程度のものをすごく好きだと勘違いすることがあるかもしれない。会話を重ねていくうちに綺麗で純粋だった自分の好きという感情にヒビが入っていくと思います。やっぱり自分の嗜好は自分で必死に探さなきゃいけないものだと思いますね。

――そうなんですね。ちなみに漫画や映画などをインプットする際に心がけていることはありますか?

純粋な気持ちで作品を楽しむようにしています。全てを覚えておくことは恐らく無理だと思うので、結果として印象に残ったことだけがインプットできたことだと思っています。

――作品の見方に拘り過ぎないほうがよいですね。先生は新人の頃、作品づくりで悩むことやスランプなどありましたか?

ネームを何回送っても通らなかったことがありました。その際は、なぜ自分のネームがダメだったのかをきちんと聞いて、次は同じ過ちをしないように注意していました。

私は商業誌で漫画を描いてご飯を食べていきたかったので、ダメな部分は修正していくしかないと思いました。だからといって描きたいものを妥協するわけではありません。受け入れられる範囲で自分が面白いもの・好きなものを描こうと思うようになりました。

編集から「ダメだ」と言われてしまい、落ち込んで描けないという人もいっぱいいると思います。ただ、その間にも誰かが新しい漫画を描いて連載を開始していくんですよ。さっさと描くしかない、描き続けるしかないと思います。

第2部:人間描写の浪漫へ──。

生々しい人間を描きたい

――新人作家さんの中には、題材にフィットした主人公が思いつかないと悩んでいる人も多くいる印象です。先生は主人公をどのように作られていったのでしょうか?

『少年のアビス』の場合は、先に心中物を題材にしたいというのがありました。そこから、死んでしまいたいと本気で思う人ってどんな人だろうと考えていきましたね。

10代の頃の自分を思い返すと、家庭環境が悪く、いつもノリで死にたいと言って、思いを吐き出していました。その鬱憤をぶつけるように作品作りもしていました。とすると、気持ちのはけ口がなく、劣悪な家庭環境を素直に受け止め続ける人間だったら本当に泥沼の状態から抜け出せないだろうと思ったんです。令児というキャラは本心と向き合わず、表面ではすごく辛い家庭環境を気づかないふり、半笑いで許しているみたいな存在にしようと。

――自分の感情を発散する場所がない主人公...。

そうですね。自分と環境が似つつも、感情をうまく発散できない人間が主人公に適していると考えました。そこから必然的に気が弱そうな雰囲気や、いつもニコニコしていて人当たりが良さそうだけれど、何も考えていなさそうみたいな感じなどが徐々にイメージできてきました。

――先生ご自身の経験をベースに主人公が生まれていったんですね。そのようなキャラクターが他にもいたら教えてほしいです。

チャコですかね。チャコの常に自分が部外者だという意識は10代の私の中にもありました。世の中にいろんな大事件やイベントが起こっていても田舎にいる私にとっては「そういうことが起きているんだぁ」と外側から観察していたような感覚だったんですよ。“私は常に世界の中心にいないんだな”という気持ちはチャコと同様に私も持ち合わせていましたね。

――そうなんですね。貴重なお話しありがとうございます。『少年のアビス』は周辺人物も魅力的だと思います。1話時点で全員が物語にどのように関係してくるのかは具体的に考えていたのですか?

考えないようにしていますね、何かしでかすとは思っていますが。具体的に何をさせるとかを考えてしまうと、それに向かってキャラクターを動かそうとしてしまう可能性があるので。ただ、絶対に運命の糸は絡み合うというのは自覚的に描いています。

――新キャラがほとんど出てこないことも印象的でした。

私は少人数のキャラクターを描くだけでも大変だったんですよ。以前の作品では、3人の人間について描くだけでも8巻分の時間がかかりました。だから、『少年のアビス』でも1話に出てくるキャラクターたちのことを描くだけでも、すごく時間がかかってしまうと分かっていたんですよね。キャラクターそれぞれについて、どれだけ深く人間を描けるかに強いこだわりがあるからだと思います。

――深く人間を描けるか。

キャラクターを描くというより人間を描きたいんですよね。ここで言うキャラクターというのは、こういう状況ではこういうリアクション取るというのが決まっている存在のことです。あまり複雑な人間ではないイメージです。

そのようなキャラクターよりは、昨日言ったことと全然違うことを今日普通に言ってきたりとか、ふとした時に腹たつようなことを言ってきたりする、生々しい人間を描きたいという欲求が強いんです。

――こだわりを持ちながら描くことは大切ですね。では、キャラクターを絵で描くときに意識していることはありますか?

私はキャラクターがそのコマにいる時の佇まいを意識しています。このセリフの時やこのの時にこの人はどういう顔をしているだろうということを考えて描いています。頭の中で映画を撮っているようなイメージかもしれないです。

例えば、キャラクターの顔を綺麗に描きすぎてしまったり、整い過ぎてしまったりしている時はわざと崩したりします。感情の出力に一番適した表情が何かというのを考えているので、その瞬間 女の子が多少可愛くなくてもそっちの方が生々しいなとか、こんな小綺麗な顔をしてほしくないとか考えています。

――いつかの柴ちゃん先生の表情が目に浮かびます。

第3部:演出の極意へ──。

ページをめくってうわっと思わせるのが漫画家の使命

――『少年のアビス』では目を引く絵が多いことも魅力の一つだと思います。先生は演出や構図などをどのように考えて、作品に落とし込んでいるのでしょうか?

セリフやモノローグがふとした時に頭の中に出てくるんですよね。そこから、そのセリフに合う絵ってどのような絵なのだろうか、そのフレーズを言わせるまでにどのようなキャラクターの動きがあれば、カッコよいだろうとかと考えるようにしていますね。

――すごい...。

10代の頃に小説を書いていた時から、状況や場面にぱちっとハマるかっけぇ文章やフレーズを考えることが気持ち良くて好きなんですよね。これもやはり嗜好です。好きだから無意識にでも模索してしまいます。

――『少年のアビス』第1話では、主人公・黒瀬令児 とヒロイン・青江ナギがシガレットキスをする印象的な絵があります。その絵は描くまでにどのような発想があったのでしょうか?

1話の最後のページに書いてある「僕のいのちが始まる」というキャッチフレーズが最初に浮かびました。このフレーズを1話の最後に入れたいと思い、それまでに主人公に無の状態から”生と死”を予感させる印象的なシーンを描かなきゃと考えました。それがあの死神的な美女 青江ナギとのシガレットキスになったのかと思います。

――独白のシーンも『少年のアビス』といえばの見せ場の一つですよね。

漫画をプロットから作る人間なので、セリフがどんどん頭の中に出てくるんですよ。でも、出てきたセリフを全部一コマ一コマに何かの絵を入れながら見せてもなんか面白くないなと思い、工夫をした結果ですね。何にも喋らなそうな主人公の男の子がこれだけ愚痴ってしまう、それほどに切羽がつまっているのだということを見てほしかったです。

――「地獄サンドイッチ」は最近で一番印象に残っているシーンの一つです。

ネームを書いている時にシーンが浮かぶことが多いのですが、この時には幻想的な宗教画のようなものを描きたいなというのがあったんですよね。

――いきなり幻想的な宗教画という発想はなかなかできないと思います。

宗教の話は昔からすごく好きで、学生時代も図書館でずっと宗教の本を読んでいたんですよね。若い頃に見ていたものが無意識に反映されたのかもしれません。

――『少年のアビス』はリアリティ重視の物語にも関わらず、演出の1つ1つには漫画的な工夫が施されていることがすごく魅力的です。

『少年のアビス』は、セリフが延々と続いてしまい単調な作品になってしまう可能性があるんですよ。すごいことが時々は起こるけれど、あまり起こらない(笑)。ただ、漫画は面白いことが第一なので、ページをめくってもらう工夫のために演出を考えています。ページをめくってうわっと思わせるのが漫画家の使命だと思うので。

――貴重なお話をありがとうございました。最後に新人の方に向けてのエールを頂きたいです!

ネームや原稿を描いて1・2回ダメと言われて、漫画を描くことを諦めてしまう方たちがいます。それは勿体無いと思っています。正直、漫画を描こうとする人は特異な人たちだと思います。そんな特異な人たちから生み出される、見たこともないような面白いものがたくさん世の中に出てほしい。

一世一代のとんでもなく面白い漫画を描けるかもしれなかったのに、目の前の担当さんと話すのがだるいとか、また持っていくのが面倒臭いというのでやめちゃうのは本当に勿体無いです。些細なこと過ぎて。

何でもいいしどこでもいいから漫画を描き続けて、自己追求をやめないでほしいです。あなたが描いた作品を読んで衝撃を受けた誰かがまた新しい漫画を描くかもしれない。その人がまたとんでもなく面白いものを世の中に出してくれるかもしれない。そうやって連綿と受け継がれていってほしいですね。「一言」とか「エール」というよりは私の「願い」かもしれないです。

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