第25回 週刊ヤングジャンプ新人漫画大賞 結果発表

準大賞+月間ベスト+初受賞ボーナス 「ヤンジャン漫画TV」にてボイスコミック化決定! 喪明けのコーヒーどんな味

29P

くろうるり 奈良県

賞金63万円

準大賞50万円+月間ベスト10万円+初受賞ボーナス3万円

中村先生講評

絵が綺麗でキャラデザも魅力的で、テンポが非常に良く合間に挟まれるギャグも面白く、とても読みやすかったです。
ページ数以上の満足感でした。絵の表現の幅も広く、そして何度も言ってしまいますがギャグが本当に面白かったです。シリアスシーンに挟み込んでも邪魔にならない表現でありながらもしっかり温度感のギャップで笑っちゃうバランス感など、とにかくセンスが高いように思います。
キャラクターみんなにかわいげがあるのも好きです。スッとキャラクターを好きになれます。
とにかく作品を描き重ねて、キメ以外のコマでも画力を発揮できるようになればもう何もいうことはないと思います。
それから1点、比較的ありきたりではない人名には、最初に出てくるコマだけでもいいのでルビを振ると読みやすいかなと思いました。僕は最後の最後まで、主人公の名前の読み方に確証が持てませんでした…。

編集部講評

いい意味でバカバカしいツカミながら、その実作家さんのシニカルな視点が随所に散りばめられており、楽しく読めました。
コメディではありますが、他人の不幸は蜜の味だったり世界平和と身近な平和の天秤だったり、SF的皮肉もちゃんと押さえられてて厚みも感じられます。
ただ、よくよく読むと論立ての甘さ、作中で湧いた疑問が丁寧に回収されていない部分も目立ちます。
発想勝負の作品で戦うのであれば丁寧さという視点でレベルアップを図って頂ければ。

あらすじ

“性欲がなくなれば世界は平和になる!!”非モテ2人による壮大に間違えた世界平和への道は…!?

準大賞+初受賞ボーナス 彼女は悪魔

52P

しぶき(24)宮城県

賞金53万円

準大賞50万円+初受賞ボーナス3万円

中村先生講評

画力が高く、人物も背景も非常に綺麗で漫画的な表現や表情の描写の幅も広く、とても楽しく読めました。
ストーリー展開やどんでん返しはもちろん、そこに至るまでの流れや設定も丁寧で素晴らしかったです。最後の1Pまでしっかり騙されました。お見事…!
1点だけ、23P4~11コマの読む順序がわかりづらかったので、それぞれのコマの上下位置を均一にせず高さに差を出すなどして縦読みにしやすくしても読みやすくなるかなと思いました。

編集部講評

終盤のどんでん返しにしびれました。実在する人物をイマジナリーフレンドにするという発想力に脱帽です。
しかし終盤の展開が非常に分かりづらく、何度も読みてようやく理解できるレベルでした。イリスの本当の友達とストーカーのビジュアルがそもそも似ていることが難解さの一因だと思うので、はっきりとキャラデザを分けるなどの漫画的な工夫は欲しいところでした。
とはいえ、現段階の完成度以上に今後が楽しみな才能だと思います。

あらすじ

“高嶺の花”がまさか私と友達になってくれるなんて。でも人前では他人のフリをするのはどうして…?

佳作+審査員特別賞 宇宙人だった君へ

56P

はりはる(21)東京都

賞金40万円

佳作30万円+審査員特別賞10万円

中村先生講評

絵がとてもかわいらしく、また表現も多彩で、その上キャラクターの心情描写も丁寧で普通にプロの作品を読むように楽しく読むことができました。
ページ数もかなり多いのですがそれを微塵も感じさせないほど没入して読めました。非常に面白かったです。
読み進める中で唯一心配だったのは、2人がハッピーエンドになってくれるかどうかだけでした。完全に僕の好みの問題ですが。でもハッピーエンドだったので100点です。ありがとうございます。
何もかもの技術が非常に高く僕からアドバイスできることは特にないのですが、細かい点でいうと11P4コマは一瞬回想ではなく地続きのシーンにも見えたので、吹き出しと書き文字にもトーンをかけた方が回想シーンであると瞬時に読み取れるかなと思いました。

編集部講評

思春期の等身大で小さな絶望が生々しい共感値を持っていて、若年層読者への訴えかける力を感じます。
狭い世界で成立するアイデンティティが社会と繋がる過程で相対化されていく様を見事に捉えています。
その一方で内容に対してやや過積載なきらいがあり、展開がある程度読めた上で終盤まで読むにはなかなか根気のいる分量かと。
テーマや描写に関してはとてもセンスのある方かと思いますので、漫画的な技術が身に付くことで飛躍的なレベルアップが見込めるのではないでしょうか。

あらすじ

クラスに馴染めないわたしたちは“宇宙人”だった。でも、中学生になると君はすっかり友達もできて…。

佳作+初受賞ボーナス どんな私でも愛してくれる?

39P

ゆぶみ 東京都

賞金33万円

佳作30万円+初受賞ボーナス3万円

中村先生講評

画力が高くて女性キャラがかわいく、画面がキレイで読みやすく、ギャグ顔の表現なども豊富で面白く読めました。また物語の中に大きなどんでん返しがあったのもよかったです。
種明かしとしての「双子の姉」の存在は、もう少し事前に存在を示唆していてもより驚きや納得感が強くなったかなと思いました。現状だと少々唐突な印象なのと、初出の情報である以上「種明かし」というよりも「説明」という印象が強いので大ゴマで明かすこととのチグハグ感を感じてしまいました。
また物語の都合上「ハメられる役」の主人公が読者に愛されづらい性格のキャラクターなのはわかりますが、その場合はもう少しどんでん返しまでの「前振り」は短めのページ数でないと、「自分には合わない」と漫画を閉じてしまう読者も少なくないかなと思いました。

編集部講評

ツカミや画面の印象に反したテーマ、作劇が魅力ですね。 このチグハグさが生む魅力、という設計思想自体は近年の流行ではありますし、よく研究した上で作られていると感じます。
一方で、話の構造の優先順位が「意外な展開を作ること」「驚かせることそのもの」に偏り過ぎてしまった印象を受けました。 キャラクターの行動原理も本人の思考の延長線上ではなく物語の舞台装置としての役割性が強く、その結果読者が楽しむべきポイントがあまり強く打ち出せていない形になってしまったかなと。
次回作はキャラに寄り添った作劇を意識してほしいと思います。

あらすじ

担任から頼まれた不登校のクラスメイトの世話など厄介極まりないのだが…出てきたのはギャル…?

佳作+初受賞ボーナス ディアトラベラー

27P

リースリース(29)神奈川県

賞金33万円

佳作30万円+初受賞ボーナス3万円

中村先生講評

多くは語らず、キャラクターの心情を中心に描写する作風が綺麗で楽しく読めました。絵も優しく素朴な雰囲気かつ、見やすくて好きです。ラストも雰囲気がありキレイな読後感でよかったです。ユリさんのキャラクターも素敵でした。
ただ、多くを語らない作風は読み取れる読者にはオシャレで好感的に感じられるかと思いますが、より多くの読者に楽しんでもらえるようもう少々「説明」を増やすのもアリかなとも思いました(物語の冒頭でお店が「レコードの“販売店”」であると説明することや、アキオさんがユリさんの「兄弟」ではなく「夫」であった事の説明など)。
また「アキオ」「まさき」の2人の人物名がどちらも書き文字で1度出てくるだけなので注意深く読む読者でなければ2人を混同してしまうかなとも思いましたので、アキオさんの方はセリフ上でも何回か出してもより読みやすくなるかなと思いました。

編集部講評

画風、空気感、テーマがそれぞれとてもマッチしていて、読後感の良い素敵な作品でした。
ただ、同人的な作品作りというか、いい意味でも悪い意味でも「同好の士へ向けた」作品という印象。前提として優れた演出力や空気感をお持ちの方だなという一方、全体的な踏み込みの浅さは気になります。
たとえば、実在の曲を絡めた演出であったり、少ない描写で故人の人生を思わせるシーンであったり、夫が彼女と過ごした日々を感じさせるアイテムであったり…。こういった隣人性の高いフィクションならではの踏み込みは欲しいところでした。

あらすじ

あるレコード屋に一年取り置かれたままの商品の持ち主は、亡くなった常連さんだった。そこに本人(?)が現れ…。

佳作+初受賞ボーナス 腹痛の任侠道

32P

みずたにまさかず(28)神奈川県

賞金33万円

佳作30万円+初受賞ボーナス3万円

中村先生講評

人物はもちろん、背景の作画も丁寧で読みやすく、好感が持てました。
誰もが共感するであろう便意の腹痛というネタのチョイスが見事で、そこにヤクザを噛み合わせるオリジナリティも良く、冒頭のやりとりからのオチも秀逸で、それぞれのキャラにかわいげがあるのも魅力的でした。
1点、6P1コマに「使用中」の文字がない作画アクシデントが発生しているかもしれません。
また、そこまでは気にはなりませんが長文台詞をできるだけ削る調節と、コメディがメインの作品であればもう少々ページを削っても、疲れずに読み切る事ができて純粋にネタの面白さの印象が残りやすいかなと思いました。

編集部講評

出オチでしっかり読者の心を掴もうという意図が感じられて好印象でした。笑いどころをたくさん作ってテンポ良く進めようという意識も素晴らしいと思います。
ただ、内容に比して長いページ数であったり、このテーマであれば同じような内容であっても疾走感次第ではより高い次元にはいけると思うのですが、とはいえ「腹痛のヤクザの苦労話」はそれほど強いヒキのテーマではないかなと。
次回作では描きたいものと必要なツール、そしてそれをどこに届けるかという意識を高めて欲しいと思います。

あらすじ

街であ名の知れたヤクザにトラブル発生…!! 腹が痛え…!! しかしここは電車という密室…手立ては…!?

佳作 リスタート

53P

しろクロ(19)東京都

賞金30万円

佳作30万円

中村先生講評

人物の画力が高く、表情なども魅力的でした。ページが多いのですが、そのページ数に比例するだけのストーリーもしくは絵的な盛り上がり・山場が後半になかったことが少々残念でした。
最後に2人の心の交流はあるのですがそこを山場にする場合はもう少し2人の交流を中心にページを割いたり、欲を言えばこの心の交流があった上での「2人で頑張るシーン」などが山場になると読み味はグッと増すかなと思いました。
またキャラクターの性格や物語などに、もう少し他の作家とは違う「目立つ特徴・個性」が欲しかった印象です。
ただ若いので、作家としての個性はこれから会得していければ良いかと思います。技術自体はこの若さでは素晴らしいレベルだと思います。

編集部講評

19歳とは思えない絵力がありますね。真正面からドラマを描こうという姿勢も素晴らしいです。
ただ、ドラマ、シーン優先の描写というか、それぞれのキャラクターがそのような振る舞いをするに至る部分の描写がなされておらず、ダイジェスト的に感じてしまい、入り込みにくい印象を受けました。
また、主人公をどのように応援してほしいかがあまり見えてこないキャラ設計も勿体なかったですね。
とはいえ、画力はかなり高く、卓越した一枚絵の技術・センスはとても魅力です。その一方で漫画的な視認性や視線誘導など、画面構成の技術は向上の余地がありそうです。お若いので量をこなして頂きたいなと思います。

あらすじ

凡人を蔑む天才野球少年だが、大怪我を負ってしまう。復帰後も精細を欠いたプレーが目立つようになり…。

佳作 grimoire

42P

西にしじん(25)北海道

賞金30万円

佳作30万円

中村先生講評

画力が高く絵柄に独特な雰囲気もあり、その上で男の子も女の子もかわいくて素敵でした。それぞれのキャラクターと、正反対であることによる見せ方・立て方も綺麗でした。
そのまま連載企画にできそうな世界観・設定作りも良かったですが、説明が必要な分若干読み切り向きではなかった印象と、世界観や設定自体にももう少しオリジナリティがあってもより読者の関心を引けるかなと思いました。
また女の子であるツキがグリムをぶん投げることができる描写につきましてはなんらかの魔法の効果にするか、事前に力持ちであることの紹介の描写などがあっても説得力が増すかなと思いました。

編集部講評

作中独自のファンタジールールなど入り辛さもありましたが、バディものとして良く描けていました。
ただその分視点が入り混じり散漫な印象もありました。読切なので主人公と追うべき感情を定めて描いた方が読者にとっても読みやすくなると思います。
また、背景までもキャラっぽいというか個性的かつ魅力的な絵ですが、その分全画面の情報量が多く、せっかくのキャラが埋没してしまう印象です。抜きゴマを作ってメリハリ出したり、キャラと背景の線を変えることで、キャラがもっと前に出るのではないでしょうか。

あらすじ

魔法使いを目指す学園で、落第生2人に追試が課される。しかし、“受からせる気のない”過酷な試験で…!?

期待賞+初受賞ボーナス VS睡魔

22P

ふじもとけんしょう(20)奈良県

賞金13万円

期待賞10万円+初受賞ボーナス3万円

中村先生講評

いわゆる「悪魔の囁き」が甘い言葉ではなく暴力で黙らせようとしてくる設定が新鮮で面白かったです。
また、シュールなギャグの物語の中に親への感謝など大切な言葉が含まれている部分が、主人公ならびに作品・作者の純朴さが滲み出ていて素敵だと思いました。オチも、共感性が高く面白かったです(笑)。
主人公と睡魔の髪色が同じな上で髪型のシルエットも近く、後ろからの見た目も近しいため特に18Pは(主人公が睡魔のように目を閉じているシーンなのもあり)どちらがどちらか瞬時には認識しづらかったので、どちらかの髪色を変えてもより読みやすくなるかなと思いました。読者は作者ほどキャラクターの細部にまでは関心を持ちづらいので、どの角度からパッと一瞬見ただけで誰もが区別のつくようなデザインの書き分けが大切かなと思います。

編集部講評

あるあるを勢いよく描けていて共感度が高いお話でしたが、20Pたっぷり使った「フリ」に対して「オチ」が弱いのが残念でした。
ワンアイディアを押し通すには分量が多かったり、描写力が不足していたりとまだまだ発展途上な印象でした。「過度に誇張した何気ないテーマ」という作品は、その手法自体いくらでもやりようがある故に他との差別化が欲しいところではあります。
作画、作劇、テーマ選び、構造、画面構成などなど、読者が何を持ってこの作家さんの作品であると認識するかについて意識を払えるようになると次のステップに向かえるかと思われます。

あらすじ

通学時間往復4時間…過酷な学生生活を送る毎日、できればこのまま寝ていたい…!!

審査員総評

[君のことが大大大大大好きな100人の彼女]の中村力斗先生

新人賞の審査員は何度か経験させていただきましたが、今回は特にレベルの高い作品が多かった印象でした。どの作品も純粋に一読者として楽しませていただき、良い刺激や貴重な学びもいただきました。ありがとうございます。正直雑誌によってはとっくに連載していてもおかしくないレベルの作品がいくつもあって驚きました。若い才能の芽に恵まれたヤングジャンプを、これから一緒により盛り上げていければ幸いです…! お互い頑張っていきましょう!

YJ編集部

全体的にレベルの高い作品が揃った素晴らしい回でした。新人賞ですとどうしても時代的な影響を強く受けたもの(流行作品の影響やテーマなど)ばかりになり、結果的に没個性化してしまうことが多い中、技術は発展途上であっても個性の際立つ意欲作が多く、実りの多い回でした。次回も意欲的な作品をお待ちしております!

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