第37回 週刊ヤングジャンプ新人漫画大賞 結果発表

佳作+月間ベスト賞+初受賞ボーナス 「ヤンジャン漫画TV」にてボイスコミック化決定! 冬鯨

30P

じょうしゅう(19)福岡県

賞金43万円

佳作30万円+月間ベスト賞10万円+初受賞ボーナス3万円

想像を刺激するモチーフで作中世界へと読者を誘う異色作。

二宮先生講評:

主人公と敵対していた国の子供達の物語ですね。異文化や過去の悲しみを超えた「情」を描きたかったのだと思います。が、子供達が仮面をしていること、鯨を改良した兵器等々があまり意味が分からずノイズになっていると思いました。身近なテーマで始めるのもいいかもしれませんよ。

編集部講評:

ユニークな世界を構築する力が存分に発揮されています。兵器化した鯨や顔を隠した子供たちなどの謎めいた要素をちりばめつつ、その背景を匂わせることで作中世界についてより深く知りたくなるような世界の奥行きが生まれていました。ファンタジーの強みである、壮大な設定や世界観で読者を楽しませることができる可能性をお持ちだと思います。また、戦争という題材、雪国という舞台を明確な線を重ねるような絵柄で描いており、硬派な雰囲気と画面の鋭利さがかみ合っていました。一方で、持っている世界が大きすぎて、本作ではまだその魅力の全てを読者に伝えきることができていないかもしれません。今後経験を積んで、情報を取捨選択する能力や作中世界がもっとも魅力的に映る切り口で描く描写力を手に入れた時、現実世界を遥かに超えるスケールの作品を描かれることを楽しみにしています。

佳作+審査員特別賞+初受賞ボーナス 月下氷姫譚

48P

ふくがい(22)愛知県

賞金43万円

佳作30万円+審査員特別賞10万円+初受賞ボーナス3万円

戦乱を勢い溢れる筆致で描いた意欲作。キャラクターの真に迫る表情にも注目。

二宮先生講評:

細かい設定説明もキャラ紹介もなく、唐突に話が始まります。主人公の人間性も周囲との関係性も分からぬまま、敵が攻めてきます。でもなぜかその熱量に、画面の迫力に圧倒されました。「この世界に来いよ」と手を強引に引っ張られて連れていかれ、魅了されました。すごい作家さんになる素養をお持ちだと思います。このままご自身の才能を信じて力強くお進みください。

編集部講評:

人間のぶつかり合いを正面から描いています。登場人物が命がけで争うことによる緊張感に引きこまれました。また、その争いの中でどのように感情が動いているのかにも焦点が当てられており、キャラクターで楽しませようとしていたのが良かったです。さらに特筆すべきは画力です。効果線を駆使して衝突の迫力を伝えた11ページ、涙と食いしばられた歯に決意の強さを感じる42ページなど、絵で対立や感情を読者に伝えられていました。一方で展開がやや早急で、読者が話についていけない恐れがあります。読者は作中世界について何も知らないことを念頭に置いた導入を心がけてください。欲を言えば、欲求に応える展開、共感できる動機などで読者の興味を惹ける設定が作れるとなお良いです。

佳作 ミネルバの旅

42P

ようのうせい(25)東京都

賞金30万円

佳作30万円

見開きから背景の小物まで冴えわたる画面構成力。

二宮先生講評:

すごい画面ですね。複雑な設定でしたが、とんでもない画力と軽やかなテンポで気持ちよく読むことができました。迫力のある城や可愛らしい宇宙服が、僕の網膜を喜ばせ続けました。すぐ連載できる力をお持ちだと思います。

編集部講評:

画面が華やかでした。6ページ目から7ページ目、城に到着した際の見開きにはこれからの展開に期待を持たせる力がありました。城壁の上に建設された様々な建物、そして中心にそびえるドーム状の建造物で繰り広げられる冒険譚に心が踊ります。さらに、16ページの最後のコマなど、背景や小物にまでこだわりが溢れていました。しかし、物語については親を探すという目的と演奏という行動の関連性がなく、軸がぶれています。また、サブキャラクターであるオスターに多くのページを割いており、主人公の存在感が薄くなっていました。主人公の目標に対してそれぞれのイベントが持つ意味を明確にすることで、何を楽しむ作品なのかが伝わりやすくなるかと思います。

佳作+初受賞ボーナス 禽獣虫魚の骨格

38P

りん(29)東京都

賞金33万円

佳作30万円+初受賞ボーナス3万円

一貫した前向きさに好感を覚える良作。

二宮先生講評:

僕が動物好きというのもあってか、好感度の高い作品でした。主人公がなぜ動物に好かれてしまうのかもう少し説得力があるシーンが見られるとさらによかったと思います。それをクリアできれば連載、ドラマ化まで見えました。てか見たいです。

編集部講評:

室内に大量の鳥が降り立つ場面を冒頭に置き、読者の興味を惹こうとする工夫が好印象でした。動物に好かれる体質に苦しんできた主人公が動物の存在を肯定できるようになる心情の変化を描こうとする姿勢もgoodです。キャラクターの成長に焦点を当てることで、読後に前向きな気持ちにさせる作品になっていました。ただ、主人公が動物に好かれやすい設定が中盤以降全く活かされていないのが残念です。一話の最初から最後まで、一貫した楽しみ方を提供できると良いのではないでしょうか。さらに大部分が会話劇で進んでおり、見せ場がありません。リアルな動物の造形などから高い画力をお持ちかとお見受けしますので、それを活かして中盤以降でも読者の印象に残るような画面作りを心がけてください。

期待賞+初受賞ボーナス ゆするも恋も前進

38P

なかごめチュウ(23)愛知県

賞金13万円

期待賞10万円+初受賞ボーナス3万円

二宮先生講評:

正直、イカれてる人が描いてる作品です笑 イカれてる人にしか描けない最高に面白い漫画でした。説明も理屈もなく急に不思議な世界に連れて行かれます。漫画はこんなに自由で楽しいのかと悔しい気持ちです。早く連載して、また僕を不思議な世界に連れて行ってください。お願いします。

編集部講評:

「貧乏ゆすりをしていたら地下に落ちる」冒頭の展開に編集部内でも衝撃を受ける者が多かったです。見たことがないゆえに作品内に読者を引きこむ力が宿っていました。他の人と違うことはそれだけで武器になるので、唯一無二の感性を大事にしてほしいです。しかし、その独特な世界も長く続きすぎて、没入感を維持できないかもしれません。 序盤の勢いを維持できるよう、短いページでまとめることをご検討ください。さらに、セリフが長くて多いためボケツッコミのやり取りが埋もれていました。特に読ませたい台詞は短く、かつ字を大きくするなどして目立たせてください。

期待賞+初受賞ボーナス ヨクキ

46P

くわもとゆうだい(28)東京都

賞金13万円

期待賞10万円+初受賞ボーナス3万円

二宮先生講評:

1P目で「世知辛くん!かっこいい!」と言われてるんですが、その世知辛君が全くかっこよく見えないというノイズから入りました。絵を描き慣れていないというのが要因かと思います。着眼点が面白いので、経験を積むのが必要だと思います。

編集部講評:

願いを叶える道具である「ヨクキ」を手に入れた主人公が欲望をエスカレートさせて破滅に至る展開に薄気味悪さを覚えました。黒ベタが多用され、暗い印象を与える作画と組み合わさって不気味な作品に仕上がっています。しかし、「ヨクキ」によって欲望を抑えることが能力の向上に直結している点には飛躍を感じました。勉強や運動が出来るようになるためには努力が必要なはずですが、その取り組みの描写が不足しているように思います。また、本作の主人公が「存在を消滅する」罰を受けるほどの悪人には見えませんでした。因果応報で罰を受ける話は、負の影響を周囲に与えた分マイナスの出来事が降りかかるなど「悪いことをしたら自分に返ってくる」という感情的に受け入れやすい流れになっているかと思います。本作では他者を害したわけでもない主人公が消滅という重い罰を受けており、納得感が薄かったです。

期待賞+初受賞ボーナス 現状維持の恋

24P

あさはなだ(19)岡山県

賞金13万円

期待賞10万円+初受賞ボーナス3万円

二宮先生講評:

恋愛漫画の定石に“どちらかの心情は読者の想像に委ねる”というものがあります。今作で言うと物語を力強く推進してくれそうな漆田さんの心情は見せて、骨倉さんの心情は隠す(表情などで想像させる)のが良い気がします。また漆田さんはクールなのか、キャピキャピしてるのかわかりづらかったのでその辺りの統一感もあるとさらに良くなると思いました。

編集部講評:

年上の店長に想いを寄せる女子大生のヒロインと、若い世代との距離感に気を遣う店長、互いに大切に思っているのに進展しない関係に好ましいもどかしさを感じました。目標にひたむき、他者に気を遣えるなどの美点をメインの2人が持っており、応援したくなるキャラクターかと思います。反面、2人とも空回り感のあるボケ同士のカップルのため、永遠にすれ違い続けるばかりで物語が進まなかったのが残念でした。現状維持するしかない関係の中でもいちゃつくために頑張るなど、状況を理解して行動できるキャラクターであれば展開にバリエーションが生まれたのではないでしょうか。また、本作ではおじさんである店長の魅力がフォーカスされていたように感じました。しかし、男性向けラブコメであればヒロインの魅力が見たいです。

期待賞+初受賞ボーナス Pack of~

54P

さくらはやた(23)大阪府

賞金13万円

期待賞10万円+初受賞ボーナス3万円

二宮先生講評:

不思議なテンポ感が魅力の作品でした。シリアスなのか笑わせにきてるのか、よくわからないのが作品の魅力を増幅させています。意図しているのかいないのか、やたら吹き出しがデカかったり、主人公がポンコツに描かれていたかと思えば後半には有能になっていたり。最終ページも意味わかんなくて好きです。

編集部講評:

物語の軸が「荷物を無事に目的地まで届けられるのか」に絞られており、そのスリルを雑味なく楽しませる作品でした。黒と白のコントラストが明確な画面作りも緊張感を盛り上げるのに一役買っていたように感じます。一方で、臓器を運んでいたはずなのにぬいぐるみが出てくるラストには唐突な印象を受けました。それまでの流れとの接続を伝えることで、一つ一つの展開がどのような意味を持つのかを読者と共有してください。また、画面作りには特定の作品の影響を強く感じました。模倣によってコマ割り、吹き出しの位置、1ページあたりの情報量などを学べるので漫画制作のうえでは得るものも多いかと思います。しかし、本作では「似ている他の漫画」という面白さに無関係なことをイメージしてしまい、没入感が減るのがもったいなく感じました。

審査員総評

[BUNGO-ブンゴ-]の 二宮裕次先生

皆さん力作お疲れ様でした。作品を完成させるというのはとても大変ですので、それを成し遂げた自分を褒めてあげてください。
漫画を描き続けるというのは肉体的も精神的にも大変ですが、多くの方に読まれて良いリアクションがあると、この世のものとは思えぬ悦びが生まれます。
是非その体験を一緒にしましょう。これからもさらに頑張ってください。

YJ編集部

各作品に強いこだわりを感じるポイントがありました。描きたいものがあるのは素晴らしいですので、読者が読みたいものにする意識も持ってください。強くなる、可愛いヒロインに好かれる、成り上がるなど、ヒット作は読者の欲求に応える作りになっています。自分の好きなものと読者の好きなものが重なる点を探してみてはいかがでしょう。

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