『幸福の風』
35歳 女性
好きなキャラ:桓騎
「全部上手くいく」
言わずと知れたキングダムの名台詞。極悪非道の桓騎将軍から放たれるこの台詞は、"一家"と呼ばれる仲間達へ力強いエールと絶対的な安心感を与え続ける。
唯一無二のカリスマ的キャラクターである桓騎将軍だが、その残虐性はとても人として受け付けられるものではない。それなのに何故私はこの台詞に心奪われ、我が子達にも同様の言葉をかけたのだろうか。
キングダム読書感想文に応募するにあたり、今一度自分の心に問うてみた。
私には所謂"イヤイヤ期"から"反抗期"を生きる4人の子供がいる。どの子も子供ながらに生きる上での不安や苛立ちを母親にぶつけてくる。その中でも特に難病を抱える子は、他者との違いや自分の境遇に納得がいかず、やり場のない怒りや絶望をその拳と言葉の刃に乗せてくる。
親として寄り添いたいと思う反面、何と声をかければ良いのか分からず非常に情けなさを覚えた時が多々あった。そんなある日、子供にも自分にも言い聞かせるかのように「大丈夫、心配しなくていい、全部上手くいくよ」と自然に言葉が口からこぼれ落ち、その言葉に不思議と子供も前を向いた。
実生活で漫画の台詞を真似するなんて今まで無かったのに…。この言葉は登場人物だけでなく読者の心にまで届いていたのだ。私が誰かにかけて欲しかった言葉、そして我が子に親としてかけてやりたかった言葉、それが「全部上手くいく」だった。
生きる事は実に難しく、あらゆる恐怖や不安が常に重くのしかかる。それでも、凝り固まった心が解れて愛と自信で満たされるこの言葉を誰かにかけてもらえたら、時には自分に言い聞かせる事が出来たなら…。
言葉の真意に辿り着き、改めて桓騎将軍を思い返してみる。
極悪非道と呼ばれようともその残虐性の裏には確かな理由とストーリーがあり、虐げられて来た者達への想いを背負い旅路を進めた。そして旅路の終焉で一家はまさに文字通り"家族"だったと知った。
魔法の言葉は、私と同じく"家族への想い"から生まれた言葉だったのかもしれない。だからこそいつの間にか私の心に棲みつき、子供達へと伝染したのだろう。
想いを込めたエールと安心感は、愛と自信に変わる。発する側にも受けた側にも、心地よい幸福の風がそっと吹き届く。
この場を借りて、キングダムそして桓騎将軍の生みの親である原先生にお伝え申し上げたい。先生が世に放ったキャラクターの生き様は間違いなく一読者の心に爪痕を遺し、生まれた言葉は"今を生きる力"に変わった、と。
謝意と敬意、幸福の風を添えて。