『私の光、キングダム』
44歳 女性
好きなキャラ:那貴
私がキングダムを知ったのは、結婚して間もない頃。たまたまチャンネルを合わせたNHKのBSで放送されていたのが、アニメ版キングダムの第1期だった。途中からの視聴だった為、登場人物や話の筋が今一掴めない状態ながらも、アニメ第2期が終わる頃には原作を読んでみたいと思うようになっていた。しかし、既にかなりの巻数が発刊されている様子。どうしたものかと手を出せずにいた。そうこうするうちに第1子を出産。日々の生活と育児に追われ、コミックスの購読はできないままだった。
それから数年経ったある日、新聞を広げるとキングダムの大きな広告が。コミックス第50巻刊行を記念した企画で、私の住む愛知県の新聞には、官女向の姿が載っていた。その頃私は、第2子として生まれてくる筈だった小さな命の火を失い、悲しみの中で無気力な日々を送っていた。けれど向のひたむきで真っ直ぐな眼差しを見た時、「前を向こう。自分のやりたい事をして過ごそう」という気持ちが芽生え始めた。やりたい事として真っ先に思い浮かんだのが、キングダムの原作を読むこと。ちょうど自分の誕生日が近かったこともあり、思い切って夫に「キングダムのコミックスが全部欲しい」と頼んでみた。すると夫は「いいよ」と苦笑いしながら、誕生日プレゼントとしてその場でまとめて50巻を注文してくれた。
数日後、自宅に届いたコミックスを早速開く。それまでは「こんなに悲しくて辛いのに、明日も生きなきゃならないのか」と後ろ向きだった私。ページをめくり、巻が進むごとに「明日もキングダムが読みたい」と思えるようになり、少しずつ気力が戻ってくるのを感じた。
読み進めるうちに、所謂推しキャラもできた。元桓騎軍の千人将、那貴だ。はじめは、ひとクセ有りそうなキャラだなという程度の印象。しかし黒羊戦が進むにつれ、桓騎の側近とはいえ、この人はそれ程非道な行いはしてこなかったのでは、と思うようになった。強くて機転も利き、クールな中にも熱いものと人間的な優しさを秘めた男。そんな那貴を好きになった、決定的な1コマがある。44巻第471話の中の一場面。退却する慶舎一団に追いつき攻撃を仕掛ける瞬間の、那貴の口元。「よし、捉えた」というような笑みを浮かべた彼の口元に、思わずドキッとする程の色気を感じた。黒羊戦終了後に飛信隊に移籍したことも、那貴に惚れた大きな理由の一つだ。
67巻では、那貴が重要な役回りで描かれていたのが単純に嬉しかった。一方で、彼はどのような最後を迎えるのだろうか、という事も気になり始めた。中華統一が成される前に、命を落とすのかも。でもまだまだ先の話だろう。そんな事を考えながら読み進めた、69巻の衝撃。那貴が飛信隊に別れを告げ、桓騎の元へと走り去る場面では、リアルに泣いた。敵陣の中、桓騎と共にギリギリまで李牧に迫りながらの、壮絶な死。「ただの気まぐれ」と言いつつ、迷い無く自分の思いに素直に生きた、那貴らしい最期だったと思う。
70巻後半の尾平の結婚式では、ほっこりと温かい気持ちになった。が、第768話で信が羌瘣に求婚する場面。なぜか胸がキュッと締めつけられるような切なさを感じた。まるで学生時代、密かに思いを寄せていた相手に恋人がいると知った時のような、一方的な喪失感と嫉妬心。信にふさわしい相手は羌瘣だと私も思う。しかし那貴同様に信もまた、惚れずにはいられない大きな魅力を持った男なのだと、改めて実感した。
鄴攻略戦が始まった頃、私は再び妊娠し、無事第2子を出産した。子供たちがもう少し大きくなったら、一緒にキングダムを読みたいと思う。そして伝えたい。お母さんに光を与えてくれた、大切な漫画だよ、と。政にとっての光が紫夏だったように、私にとって明日も生きたいという気力を取り戻す光となったのは、紛れも無くキングダムだ。いつか、信が最高の天下の大将軍になった姿を見たい。その姿を信じて逝った那貴達の思いの火も受け継ぎながら、私はこれからもキングダムを読み続けていこうと思う。