コミックス累計一億部突破記念!「キングダム読書感想文コンクール」結果発表!!

銀賞

『王国刺戟』
54歳 男性

好きなキャラ:麃公

あれは世界中が人との距離を保たなければならなくなってしまう闇に包まれる数年前の事。
私は建築の事業で、悠々自適な日々を過ごしていた。
好きな時に好きな物を食べ、欲しい物は迷わず買う事ができる。
所謂富裕層、成功者と揶揄される類の人間だった。
そんな頃、深夜に何気なくテレビをザッピングしていると、好みの芸人さん方が熱くトークを繰り広げている番組が目に留まった。
後に私の人生に多大なる影響を与える事になる“アメトーク・キングダム芸人”だ。
漫画を読む事は好きで、それまではキングダムの事は名前とざっくり始皇帝の話、程度でしか認識が無く、何より画が好みではなかった為に触れなかったのだが、この番組をきっかけにキングダムに頭のてっぺんから足のつま先まで嵌ってしまったのだ。
その時点で物語は随分進んでおり“何故これまで読んでこなかったのだろう”と後悔した程だ。
それまでに発刊されたコミックスはもちろん、過去放送分も含めたアニメ作品、その後展開される実写版映画、展覧会、イベントetc。
とにかくキングダムに関する事には全て顔を出し、グッズも可能な限り購入し、マニアとまではいかないが、いい歳した大人にしては少々羽目を外しているかなと自認する程、キングダム中心の生活となっていった。
一方で、私が従事をしている建築業界の現状は李牧軍に攻め込まれた塞の城と言っても過言ではない程、悲惨でご高齢の職人さん方に頼らざるを得ない現状がある。
数多の現場を経験されていても、体力的に働き盛りと言われる世代に遠く及ばない老将方に、工期が迫る場面では“諦めるな!耐え凌げば我々の勝利だ!”と檄を飛ばし、時には現場において、悪意ある処遇を受けても“人の本質は光”と、自分達の利しか考えない関係者に落胆する事なく、日々邁進していた。
自分が進んでいる道には絶対に意味があると信じて。
そんな中、ある時世界中が闇に包まれてしまう重篤な事態が訪れる。“新型コロナウィルス”だ。
建築業界も多分に漏れず、業界全体が危機的状況に陥り、私の会社も衰退の一途に陥った。
生き残りを賭けた日々は正に戦国時代だ。
これまで通用してきた仕事の流れを読み、常に先手を打ち対処してきた事が全く通用しないのだ。
常に二重三重の罠に陥り、徐々に戦力を削られ窮地に誘い込まれていった 桓騎軍のように、それでも最後まで立っていれば、どれ程血を流しても勝ちなんだと強く信じ、待ち受ける社会と業界の穴に落ちても這い上がり、抗い立ち向かい続けた。
心の中に“前進じゃあ”と麃公将軍の最期の檄を常に抱え、どんな状況でも前進あるのみ。と。
死地を駆ける日々が凡そ二年程経過した頃、遂に力尽きてしまった。数千万円の負債を抱え、何より私自身の心が折れてしまったのだ。
私を信じ付いてきてくださっていた数多の職人さんがいるにも関わらず。だ。
しかし、本当の苛烈な日常はそこから始まったのだ。
借金を返すどころか日々の飯を食うのもままならず、50歳をとうに過ぎた事業失敗者が出来る仕事はそれ程多くなく、お金が無いが為に破産する手続きも踏めず、これまで築いてきた人脈も瞬く間に消え去り、やる事成す事全部ダメ。完全に“オワコン”だ。と、自分を責め続ける日々は苦しさ以外何も無かった。
いっそ自死してしまおうかと諦め始めたある日、ふと空を見上げると月が強く眩しく私を照らしていたのだ。
“月はお綺麗ですか?”
紫夏が私に問い掛けてきたようだった。
瞬間私は嗚咽し膝から崩れ落ちた。
まだだ。私はまだ終わっていない。四方八方からの攻めに苦しもうとも、豪傑に相まみえようとも、どんな罠に陥ろうとも、自分を信じ自分が信じた道を疑わず進軍すれば、自力で打ち勝つかもしれない、援軍が来るかもしれない、奇跡が起こるかもしれない。
だから、絶対に諦めない。
キングダムの数多の名場面がフラッシュバックし、私の心を奮起させた。
その直後から、一度死んで蘇った信のように私の中で何かが変わったのだ。
もう一度建築業界そして社会と人に対して自分が出来る事を全力でやろう。
一度敗けてもそれで全てが終わりではない。敗けたことから学ぶ事の方が多い。
私はそれだけの経験が出来たのだ。
と、勝てなくとも前に進み続けた蒙驁大将軍のように、最後に勝てばそれで良いと。自分が出来なくても、補ってくれる誰かを信じ、前に進み続ける事こそ大切なのだ。
あれから、およそ一年。未だに生活は苦しいままだが、私には眩い未来が見えている。私一人ではなく、新たに加わった仲間の存在。こんな私に共鳴してくれている関係者の方々。本当に沢山の人々に支えられ、今日を生きている。
改めて強く思う。
人は光だ。
苦しく辛い日々であっても、仲間の存在が光をくれる。と大王が言葉をくれる。
前進じゃあ。
と、挫けそうになっても大将軍が檄をくれる。
そして、月は今日も強く眩しく照らしてくれる。
月はお綺麗ですか。

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