河村勇輝インタビュー GO! AKATSUKI JAPAN AGAIN!!

わくわくしかないパリ五輪

僕の五輪のヒーローは富樫勇樹選手です!

高いハードルを1つ、1つ、着実にクリアしてきた。
日本の若武者、河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)が、パリオリンピックに臨む。昨夏のW杯。河村は光を放ち、日本代表がパリへの切符を勝ち取る主力の1人となった。2年前に大学を中退しプロ転向をした大きな理由の1つが「日本を代表するポイントガードとなってこの舞台に立つこと」と言うほど、世界のスポーツの祭典に対する思いは特別だ。
W杯では鮮烈なプレーぶりを見せた。日本はフィンランド戦から同大会では史上初となる欧州勢から白星を記録したが、大逆転の立役者はドラマの主人公かのように次々とシュートを決めた河村だった。大会以降、日本ではバスケットボール人気が一気に高まり、国内のBリーグも多くの観客が押し寄せる現象を作り出した。所属する横浜ビー・コルセアーズのホームゲームのチケットも入手困難となった。このW杯直後の2023-24シーズン。河村自身は得点でもアシストでも高い数字を挙げベストファイブにも選出されながら、チームは低迷した。が、新型コロナウイルス により観客来場に制限のある状況の中でプロ生活を始めた河村にとって、チーム成績は悔やまれるものでしかなかったものの、それでも「毎試合、たくさんの方々に試合を観てもらったことは本当に幸せなこと」(河村)だった。

そんな河村がどれだけ人気を高めたとしても努力という歩みをまったく緩めない理由の1つが、オリンピックだ。かつては自身もテレビ画面を通じて、世界最高峰の選手たちの集まるオリンピックを見ていた。
「ロンドンオリンピックのアメリカ対スペインの決勝は、録画をして何度も見た記憶があります」と話す河村。この試合では憧れの選手の1人であるクリス・ポールが司令塔としてアメリカの金メダル獲得に貢献したり、対するスペインがやはりNBAで活躍したパウとマルクのガソル兄弟を中心にアメリカに対抗する姿を目に焼き付けた。ウサイン・ボルトや日本の強いリレー種目などの陸上競技も見たが、一番、熱心に観戦したのはやはりバスケットボールだった。

では、河村にとってのオリンピックでのヒーローは誰かといえば、そうしたNBAを舞台とする海の向こうの選手ではなく、富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)という自身が少年期からあこがれ、今は日本代表のチームメートとしてともに戦っている選手だった。
「富樫選手が東京オリンピックの舞台で、あの身長(167センチ)でプレーをして、大きな選手を相手に点を取ったりとか、ゲームの流れを変える姿は、僕も身長を言い訳にできないと思わせてくれましたし、本当に勇気をもらいましたし、その場所に立ちたいなという気持ちにさせてくれたので、ヒーローは富樫選手です」

そして今は河村自身もまた、多くの人にとってのヒーローだ。しかし、河村が慢心を感じることはない。W杯ではドイツの司令塔、デニス・シュルーダー(NBAブルックリン・ネッツ)と対峙し、「ここぞというところでの得点やチームを乗せるアシストといった、ゲームを支配する力がすごい」と感じた。「支配する」という刺激的な言葉は河村の口からよく出てくるものだが、それほどまでに高いレベルの選手になることを強く望んでいる。

パリオリンピックでは再びドイツと対戦するが、シュルーダーを目の前にすることについては「わくわくしかない」と話す。バスケットボールという競技で河村の小柄さは不利でしかないが、「スピードは絶対に負けないという自信があります」と代わりに強みの部分で世界に臨む。
3年前の東京オリンピックでは、車いすバスケットボール男子日本代表が銀メダルを獲得した。河村自身もイベントの中で車いすからフリースローに挑戦し「めちゃくちゃ難しかった」と、想像以上の難易度を体感している。競技性が異なるとはいえ、自身がやっているものと同様、サイズの不利や激しいコンタクトのある中で車いす代表が表彰台に上ったことについて「本当にすごいこと」と刺激を受けた。

パリオリンピックでは日本代表も、そして河村自身も上を目指す。目標は過去に成し遂げたことのない決勝ラウンド進出。強豪ばかりとの対戦で道は険しいものの、河村はチームが本番で「120パーセントの力を出すために『絶対に勝つ』という気持ちで練習から取り組むことが大事」だと強調する。

バスケットボールをメジャーな存在にすることは河村の1つの夢でもあるが、オリンピックで結果を出すことがそこにつながると信じている。こちらをまっすぐに見据えた河村が、語る。
「自分たちが目標としているベスト8を達成することができれば、バスケットボールがより多く取り上げられますし、日本のバスケットボール界の発展にもつくると思っています」

バスケをもっとメジャーに!

河村勇輝 PROFILE

2001年5月2日生まれ、山口県出身。
172cm72kg。PG。
福岡第一高―東海大。
所属:横浜ビー・コルセアーズ。
23歳、172センチの超新星。W杯でのパフォーマンスは世界を驚かせた。
7月7日にNBAメンフィス・グリズリーズと「エグジビット10」契約に合意。

取材・文/永塚和志 撮影/細野晋司 撮影(試合写真)/田口有史
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