リオで銅、東京で銀、となるとパリでは…。
車いすテニスの女王・上地結衣が悲願の金メダルへ。
追い続けてきたYJがパリパラ直前の上地に迫る。
構成・文/市川光治(光スタジオ)
「パリパラリンピックはローラン・ギャロスでできるというのが純粋に楽しみです。ロンドンパラの時、健常のオリンピックはウインブルドンでやりましたけど、私たちはハードコートの特設会場だったので、普段やっている会場でパラリンピックもできるというのは初めてなんですよ。また、クレーコートでもあるローラン・ギャロスは自分が初めて優勝できたグランドスラムの大会(全仏)ですし、特別な思いがありますね」 高校3年生で出場したロンドン大会でベスト8を収めた上地だったが、実はこの大会を最後に引退しようと考えていた。しかしプロへの道を選び、2014年の全仏でグランドスラム初優勝、2016年のリオパラで銅、2021年の東京パラは銀メダルと、年々“アレ”に近づいてきている。「アレ…はい、金メダルです(笑)。ロンドンの時は、正直出れたらいいと思っていたので、メダルとか全然考えてなかったです。でも最終日に国枝(慎吾)さんが金メダルを獲る姿を見て、やっぱり自分もここに行けたら…というところから始まって、それから12年経って、そろそろ獲りたいです。でもパラだから特別頑張らないととか、すごい気が張ってるというのではなくて、自分がやってきたものが最後、結果に出ると思っているので、パリで一番いいプレーをすることが目標ですし、それまでにプレーの質や戦術だったりいろいろなものを完成に近づけるというよりは、ずっと追い求めていきたいなと思います。それで全力を出して戦った結果が、一番いいもの(金メダル)だったらいいなと思っています」 現在、上地は世界ランク2位で金メダルはすぐ手の届くところにある…と思いきや、ところがどっこい、そうは問屋が卸さない。なぜならば最強の敵・ディーダがラスボス然としているからだ。
上地は地元・東京パラでもディーダに0-2とストレートで敗れている。試合終了後に「今できることは全部やったなと思いました。最後まで絶対あきらめなかったですし、自分が思うプレーができていたと思うので、そこに関しては悔いはないなと。でも、すぐ後からやり切ったと思ったことが一番悔しくて涙が止まらなかったんです」と語っていた。まさに究極の負けず嫌い。ディーダに勝つためにプレースタイルも車いすもすべて変えて挑んだが、それでも勝つことは叶わなかった。 パラでの借りはパラでしか返せない。思えばリオの3位決定戦で上地に負けたディーダが「打倒、上地」を合言葉に急成長したように、上地もまた東京の借りをパリで返そうと虎視眈々と狙っている。
「お尻を上げるんじゃなくて、足元を下げるという車いすを作ったんです。現時点では100パーセントの満足度です」
パリを前に上地の進化は止まらない。車いすを再び大きく変え、レジェンド国枝慎吾に教えを乞い、サービスを見直す…できる変化をすべて取り入れ新生・上地結衣を作り上げた。さらに上地は次のように語っていた。 「手応えがあるだけじゃなくて確信的なものが欲しいですね。本番のパリの前に実際にディーダに勝つという経験をして、現地に入りたいなと思います」 宣言通り、パリ直前の7月のブリティッシュオープン決勝で上地は7-5、6-3のスレートでディーダに勝利した。2021年2月11日のメルボルン車いすテニス選手権以来、3年4か月ぶりの勝利だった。「ディーダに勝ってパリへ」という展開に、金メダルへの期待も自然と膨らむ。上地は熱い思いを胸に特別な場所、ローラン・ギャロスのコートに向かう。 「無観客だった東京とは違って、お客さんもたくさんでしょうし、いいプレーを見せたいですね。私は応援がすごく力になります。頑張れと言ってくれた分、力になるタイプです。そんな人たちが喜んでる顔を見たいですし、メダルを獲れたら応援してくれてる方々に報告もしたいです。熱い思い…それは何より私自身が負けず嫌いだからだと思います(笑)」
1996年12月19日生まれの27歳。オランダ・ユトレヒト州ウールデン出身。これまで四大大会(全豪・全仏・ウインブルドン・全米)のシングルス優勝が22を数え、2021年は東京パラリンピック金メダル。2021年の全豪から今年5月まで145連勝を記録。絶対王者の名に相応しいオーラと実績を誇っている。長身から繰り出される角度あるサーブ、パワフルなフォア、強烈なバックハンドが武器。上地との対戦成績はディーダが46勝16敗と圧倒している。