YJ45周年記念スペシャルインタビュー【第1弾】安彦良和

やすひこ・よしかず●1947年北海道遠軽町生まれ。70年に虫プロに入社。フリーのアニメーターとなってからは『機動戦士ガンダム』をはじめとする数々のヒット作に携わる。その後、漫画家に転身してから『アリオン』、『虹色のトロツキー』、『王道の狗』などの歴史を題材とした作品を精力的に描いている。

勧善懲悪で割り切れない人間を描く

YJ45周年を記念して特別インタビューを連続実施! 第1弾では、初代『機動戦士ガンダム』放映から45年、そして「描く人、安彦良和」展が大好評開催中の安彦良和氏が登場! 驚きの創作術と作品に一貫するテーマを語ってもらう――。

取材・文/ヤングジャンプ編集部 撮影/松田嵩範

――今年YJは創刊45周年です。そこで、同じく45周年を迎える『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターを務め、漫画家としても現在大規模回顧展を開催中の安彦さんにインタビューさせていただくこととなりました。よろしくお願いします。

安彦:はい、よろしく。

創作の裏側について

――今回、安彦さんの漫画作品を改めて読み直したのですが、膨大な量ですね。アシスタントは息子さんただ一人と耳にしたことがありますが、本当でしょうか。

安彦:はい。息子に手伝ってもらいながら、基本的に一人で描いています。

――あの量を一人で…。アシスタントを雇おうという気は起きなかったのでしょうか。

安彦:僕のやり方だと、アシスタントさんに手伝ってもらいようがない。原稿も他の漫画家さんが使うペンではなくて筆描きですし。だから、一人でやる他ないんです。息子には、ベタやトーンといった細々としたことを頼めるので助かっています。

――筆の話が出てきましたが、安彦さんは漫画を筆で描くのですよね。

安彦:特別なことをしている訳ではなく、単にペンでは描けないっていうだけなんですけどね。

――安彦さんにとっては、ペンが逆に不思議なのですね。

安彦:うん、ずっと不思議でした。僕はあまり他の漫画家さんと付き合いがないので、描き方を知る手段もないんです。「どうしてペンであんな太い線が描けるのか」と思っていました。ただ、かわぐちかいじさんや浦沢直樹さんに目の前で描いてもらう機会があって。要するに何度も描くのね、ガリガリと。それをやっと理解できました。

――『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』におけるメカやスペースコロニーも筆でしょうか。

安彦:はい。最初はミリペンとかを使おうと思ったのですが、これはダメだとすぐわかりました。それでもういいやってことでもとの筆にしました。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』第1巻より。安彦の筆により生み出されたガンダムの迫力に圧倒される。
原案:矢立肇・富野由悠季 メカニックデザイン:大河原邦男 発行:KADOKAWA ©創通・サンライズ

――結果的にスタイリッシュかつ生き生きとしていて素晴らしい絵ですよね。取材や資料集めについても伺いたいです。安彦さんは史実を基にした歴史漫画を多く描いていますが、取材等は頻繁に行かれますか。

安彦:あまり取材をする方ではないと思うんですけど、ロケーションを味わいに行くことはあります。

――印象的だった土地はありますか。

安彦:昔の話ですが、トルコですかね。『アリオン』をアニメ映画化する際にギリシアへ行ったのですが、よりエスニックな感じを味わいたくてトルコにも足をのばしました。カッパドキアまで行ったんですが、当時は何もなくてそれが良かったですね。日本に友好的で、さらに観光者慣れしていないから非常に優しかった。その経験を生かしたくて『クルドの星』という作品も描きました。

――そういった出会いも作品に繋がるのですね。『乾と巽 ―ザバイカル戦記―』はロシアを舞台にしていますが、ロシア語などどのように調べているのでしょうか。

安彦:元々は自分でたどたどしく調べていたのですが、ロシア語のできる読者がいてね。『天の血脈』を描いているときに手紙をくれたんですよ。「あなたのロシア語はめちゃくちゃだ」って。それで「しめた」と思って、「じゃあ助けてくれ」と。その人に写真資料を探してもらったりもして、ロシア語監修としてクレジットもさせてもらっています。

――そのような出会い方もあるのですね…驚きです!

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