『FF7』から紐解く創作観
――漫画では主人公にあまりイケメンを配置しませんが、野村さんが手がける作品では、いわゆるカッコいいキャラクターが多いと思います。主人公のデザインで意識されていることはありますか?
えっ? 漫画って、主人公イケメンにしないですか。(笑)
――例えば、ナルト(『NARUTO』)や、ルフィ(『ONE PIECE』)って、作中でいわゆるイケメンとして扱われてはいないじゃないですか。
なるほど。僕が主人公をイケメンにしている事の発端は、高校のときに同級生があるゲームをやっていて、そのゲームの主人公がカッコよくなかったことですね。それで友達が、「何でゲームの世界でも不細工でなきゃいけないんだ」って言っていたのがすごく印象に残っていて(笑)。その経験から、「ゲームの中では格好よくありたいんだな」と思って、主人公を考えています。
――ご自身の経験が反映されているんですね。『リバース』では物語も核心に迫り始め、敵であるセフィロスも魅力的なキャラクターだと改めて感じました。敵のデザインや設定におけるこだわりを教えてください。
僕の認識では、主人公はあまり(デザインや設定で)冒険ができないと思っています。奇を衒ったことをすると、とがり過ぎて感情移入できるキャラじゃなくなってしまうので。僕としては本当は癖の強いキャラが好きなので、主人公ではできない冒険を敵キャラでしています。
――お気に入りの敵キャラはいますか。
やはり愛されているのはセフィロスだなと思うんですけど、セフィロスもイケメンだしなぁ(笑)。そうですね、XIII機関(『キングダム ハーツII』で登場した敵組織)が気に入っています。XIII機関のデザインって、あのパーソナリティがないと、そんなに個性的なキャラでもないと思っています。内面と外見が合わさって初めてあのキャラ性になったと感じているのが理由ですね。
――内面も魅力的ですよね。XIII機関の中だと誰が一番好きですか。
やはりシグバールと……。ルクソードですね。 すごく好きです。
――裏で動いているおじさんキャラですね(笑)。『リバース』ではいよいよパーティーメンバーも揃い、キャラクターの掛け合いが大きな魅力だと感じました。『FF7』のキャラクター人気の理由をどのように考えていますか。
敵キャラクターでしか冒険ができないという話をしましたが、『FF7』が性格含めキャラクターデザインにしっかり関わった最初の作品だったので、プレイヤー側も尖らせてしまったんです(笑)。当時、まだ僕は若くて、流儀を分かっていなかったから、とにかく個性的なキャラを入れてやろうと思って作りました。『FF7』って、よくよく考えたら変なパーティじゃないですか。
――確かに(笑)。シルエットも個性豊かですね。
そこが逆に魅力になったのかなと思うんですよね。例えば、レッドXIII(『FF7』に登場する犬型のキャラクター)は四つ足ですけど、少し考えたら一人だけ(ゲームシステムの)制御が変わってしまうので、四つ足のキャラクターなんかパーティに入れないんですよ。ケット・シーとデブモーグリなんて二体分ですよ。そういう「若さゆえの無茶」が結構多いんです。
――エアリスとティファは、いわゆるダブルヒロインだと思いますが、この二人はどのようにして生まれたのでしょうか。
これはどこにも言ったことないですね。エアリスが先にできていたんですが、実はパーソナリティはティファに近いものでした。でも、それまでの王道の流れと同じにしたくなくて、ダブルヒロインにしようと決めました。そのときに、エアリス一人に込められたパーソナリティが分裂してティファというキャラクターが生まれたというわけです。そして、エアリスはストーリー上、背負っている運命がありますから、そこを際立たせるために内面を作っていきました。
――貴重なお話ですね。デザインはどのように考えていったのでしょうか。
エアリスはヒロインとして華やかなキャラクターを意識しました。クラウドが内面も見た目もちょっと影のあるキャラで、バレットもいかついので、そこに花を添える意味で、服の赤や明るい髪色にしました。それと、当時はポリゴンのゲームで、ひらひらした質感や髪の細かい表現ができなかったので結んだんです(笑)。
――そんな裏話が(笑)。
ティファは同じように結ぶわけにいかないからということで、表現が難しい長い髪になりました。ただ、ティファも先のほうを結んでいるんです。実はこれもモーション制御のし易さという事情でした。
――どのような点がご自身のキャラクターデザインの強み・らしさだと考えていますか。
正直、分からないです。有名なキャラクターの絵って似せて描いてくれる方が多いと思いますが、最近までは僕の絵に似せて描いてくれる人は誰もいませんでした。自分で描いていても思うんですけど、もう一回描けと言われてもなかなか難しい(笑)。ただ、かなり細かいところまで、何でこういう色なのか、何でそういう形状なのかという根拠にこだわりは持っています。だから、他の人が描いたデザインをチェックするときも、「何でこのパーツはこの形なのか」という質問をします。あまり他の人が気にしていないところかもしれないですね。そういう細部の設定を含めキャラクターのパーソナリティになるわけで、それが結局はゲーム、物語を構成する一部になると捉えていて。自分のデザインはその作品があってこそだと思っています。
――やはり衣装のデザインの場合、どのように着脱するかも考えているのでしょうか。
自分の中ではあるんですよ。でも見ても多分分からないですね(笑)。当時コスプレイヤーさんが出始めた頃でしたが、「こんなのコスプレできないだろう」と思いながら描いていることもありました。でも意外とみんなしてくれて驚きましたね。
――SNS等の普及によって、プレイヤーの感想・考察を目にする機会が増えていますが、クリエイターとしてプレイヤーの意見をどの程度物語に反映させるべきだと考えていますか。
プレイヤーの視点は大変興味深いですし、気付かされることも多いので、よく見ている方だと思います。反映に関しては、全くしなくてもいいと思ってはいますし、やるべきことがあるなら、やったほうがいいとも思っています。ただ、「こうしてほしい」という意見と全く逆の方向に進んで人気のキャラクターが酷い目に遭うシナリオにすると、それはやはりプレイヤーの心情的に良くないと思います。だからといって、「こうしてほしい」「はい分かりました」というのは違うと思っています。要は、プレイヤーの意見だけに寄り添うのではなく、しっかりと意図を持ってシナリオを考えるべきということです。(リメイク3部作における)エアリスに関しては、まだ語れませんが。