週刊ヤングジャンプ新人漫画大賞スペシャルコンテンツ 雪森寧々先生特別インタビュー

ヤングジャンプ新人漫画大賞 第7回審査員の雪森寧々先生に特別インタビュー
雪森先生と担当編集が語るのは『久保さん』の“届け方”。
アニメを作る時、この作品の魅力の再発見ができました。

chapter.003 遅効性ラブコメは進展を許さない。

じわじわと出来上がるもどかしさを楽しもう。

――ではアニメ第1話を観ながらお話を伺いたいんですが、脚本段階で大きな変更点があったそうですね。

雪森先生 そうですね。最初にアニメチームから頂いた構成案だと、割とストーリー仕立てに原作を再構成したものだったんです。
『久保さん~』のシリーズもののエピソードを軸に、1話ごとにストーリー性を持たせたて、結構先のお話も入れて頂いて。もちろんそれも、アニメとして観た時に楽しめるようにはなっていたんですが、やっぱり『久保さん~』のどこを原作の読者さんが好きになってくださったのかなって考えた時に、担当さんとのキーワードで「時間に匂いがあって、空間に色がある」というものがあるんですけど、1話1話のエピソードでちょっとずつ2人の関係値が育っていく、時間と空間の「積み重ね」がすごく大事な部分だと思ったんです。
全体をシリーズ形式で作ってしまうと、どうしてもストーリー・2人の関係の進展が駆け足になってしまって、原作の持つ空気感や魅力がこぼれ落ちてしまうかもしれないと思ったんです。それだと読者さんたちがこれまで応援して下さったものとは離れてしまうかなと。やっぱりお話の最初から順番に、1話からしっかりと積み重ねていけるようなつくりにしたほうが、原作の読者さんも喜ぶし、アニメから知って頂く方にも『久保さん~』の魅力をお届けできるかなと。

担当 そうですね、加えて言えば、「原作の空気感を活かす」ことを最大限尊重していただいた理由には、『久保さん』は、「ラブコメ」ジャンルの作品として、例えば「設定が新しい」とか、「デザインが革新的」、といったような、一見して分かる「新しさ」「独創性」がある作品ではない、ということが我々の共通認識としてあったと思います。

雪森先生 ファンの方が『久保さん~』の良さとオリジナリティだと言って下さるのって、作品の中を流れる、すごくゆっくりとした時間と空気の流れなのかなって。なので、アニメ版でラブコメとしての展開をきゅっと早めてしまうと、本当に特別なことが何もなくなってしまうなって思って。結果、本当に原作を丁寧に追ったつくりにして頂きました。

シリーズ構成の初期構想(左)と修正版(右)。1話単位でのまとまりを重視したものだったが、『久保さん』の演出上の強みを活かすため、原作準拠の構成に。全貌はぜひとも1話をチェック!!

――その話で言うと、先まで見えた状態で作るアニメであれば、「最新話ではこうなるから、1話からこの情報を入れておこう」というような、逆算した組み立てがし易いものの、漫画ではなかなか難しいと思います。ゆっくりとした作品性であれば余計に。
例えば、「初めて手をつなぐ」「初デート」「告白」など、さまざまなマイルストーンがラブコメの中にあるかと思いますが、その設計は連載初期から考えてあったんでしょうか?

雪森先生 あまり初期からは決まってないですね。初期は本当に生き残ろうという(笑)。全体で作品を設計するようになったのはここ最近ですね。7巻くらいかな。

担当 どちらかと言うと、単話完結の作品ゆえに1話単位での演出への意識を大事にしていますね。

――なるほど、確かに漫画版と見比べてもアニメ版の原作再現度ものすごい高いですよね。演出面を丁寧に踏襲している。

雪森先生 『久保さん~』は企画色の強いラブコメというよりは、演出のラブコメなのかなと思うので、大切にしていただけて嬉しいです。

担当 そうですね、絵柄と演出、雪森先生がもともと持っている絵柄のかわいらしさとか、ピュアさみたいなところ、演出力というのがやっぱりこの作品の魅力のコアにあるので。

――この文脈での再構成だったんですね。その“コア”への意識が強いので、一般的なアニメ作品に比べてカット割もゆっくりですよね。

雪森先生 原作にある空気感を本当に大切にして頂きましたね。

――基本的に原作準拠ということでしたが、白石くんが帰宅するパート、ここはオリジナルですね。コンテを見ると「帰宅した白石くんにワンテンポ遅れて返事をする白石くんのお母さん」ということのようですね。

雪森先生 ここすごいですよね!アニメ的には原作の場繋ぎとして、さらに言えば、やっぱり白石君は家庭の中でも気づかれないけど、学校や街中の人たちに比べると気づいてもらえる、みたいなニュアンスを強めてくれていますね。

担当 家族でもワンテンポ遅れる演出を入れることで、久保さんがノータイムで見つける冒頭がより相対化されますからね。非常に重要ですね。

雪森先生 画面そのものの表現で言うと、ここは逆にアニメならではの演出ですね!漫画だとコマの中で描くから画面に大小ついてしまう訳ですが、画面を広く使って、スマホの中で2人を動かしている。

――近寄った時のドキドキ感が伝わるような演出ですね。

雪森先生 特に『久保さん~』は短いページ数で、単話形式ですから。たくさんは大きいコマが使えないので、こういうシーンを描くには工夫が必要ですね。

――さて、アニメ第1話を観終わった訳ですが、演出を踏襲している部分、相違点、オリジナル部分などさまざまあったかと思います。その上で、もしもう1度漫画の第1話を描き直すなら、やってみたいことや直したい部分はありますか?

雪森先生 うーん。久保さんのキャラのチューニングしたいかもとは考えたんですが…。あの当時の自分が一生懸命描いたことに変わりないので多分直さないと思います。

担当 これ、新人賞の企画としては欲しい答えですね(笑)。第6回の企画で、『ジャンケットバンク』の田中先生も触れられてたんですが、自分自身の名前で作品を世に出す以上、作品のジャッジを自分で持とうという。それは時間が経っても、アニメである種リメイクされても揺らがないものを出そうということ。

――ありがとうございました!では最後に、新人賞を目指す漫画家志望者の方へメッセージをお願いします。

雪森先生 行動するのが一番なのかなって思います。自分に自信のない方は、人より早く、多く行動した方がいいと思います。自信のある方も同じです。とにかく描いて、世に出して、ということ。
そしてもう一つは読者さんを迷わせないこと。内容にせよ、画面にせよ、描きたいことを伝えられるような作品作り大切に。せっかく描いたのに伝わらないのは勿体ないです。相手にも楽しんで頂いて、自分も楽しんで描けたらいいですね。
皆さんの作品を楽しみにしています!

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