作家道の未来を考える
――現在は『GANTZ:E』で、ネーム原作者としてご活躍されています。原作と作画が分かれている作品が増えているように思いますが、初めからネーム原作者の道を目指すのも一つの手だったりするのでしょうか?
――奥先生は完全アナログから仕上げのみはデジタルに移行されたかと思います。今後、新人作家はデジタルで作業するべきでしょうか?
経費がかからないという点において、デジタルが優位だと思います。それに近頃はスクリーントーンなどもあまり売っていないし、今後も完全にアナログでやるのは結構きつい状況になっているのではないかと思います。
デジタル作業として、僕の場合は3DCGや写真から線画を抽出して背景にするという作業もあります。僕の作品は、見開きで緻密な背景の中にぽつんと人がいるみたいなカットが割と多いので、背景を手で描こうと思ったら、膨大な時間がかかります。プロアシスタントの人に頼んでも、多分そこまでリアルには描けないし、しっかりとトーンを貼っていったら、見開き1枚に1か月ぐらいはかかってしまう見立てなので、線画抽出の作業は必須ですね。
最近だとiPad1つで連載やっている人もいますよね。何でも省力化できるならした方がいいですし、経費も抑えられるので、今後も長く描いていく若い人は、可能であればデジタルに移行したほうがいいかと思います。
――3DCGは新人作家も学ぶべき技術でしょうか?
これが実はそんなことはなくて、すごく人件費が要るんですよ。ソフトを習熟するにも時間がかかるし、習熟したら終わりではなくて、メカでも部屋でも、作るのにとても時間がかかります。多分一人でやっていたら、漫画を描く前にそれだけの作業で何年も経っちゃうんですよね。だから3DCGを組み込む場合は、何人もスタッフを雇って、みんなで一斉に作ってもらう形でしかできないので、新人のうちはあまり手を出さないほうがいいかもしれないです(笑)。デビューした後にお金ができてからやるのはおすすめですが…。教室や校舎など、漫画で頻繁に出てくるものはクリップスタジオなどでも素材集があるので、そういうのを活用するのはすごくいいと思います。

緻密な背景と大勢のモブの見開き。奥先生はリアルな世界を描くために、3DCGや写真の線画抽出を積極的に取り入れている。ただ、3DCGに関しては、膨大な人件費が必要になるため、始める場合は覚悟の上で…!
いいストーリーを書けるけど絵が苦手だったり、絵柄が売れ線ではないと思う人はネーム原作を目指すほうが望ましいと思いますし、漫画の可能性が広がるので、そうやって分業にするのはいいことだと思いますね。どんどんネーム原作の人が増えてくると僕としても嬉しいです。
ネーム原作だからこそできることもあります。これは僕の場合ですが、モブがわらわらと出てくるような大変なシーンをネームで描くことが多いんですよ。必要だから描いているんですけど、「あー、こんなネームを描いてしまって、作画が大変だ」と思うようなものができあがってしまいます。でも今は「まあ、これ花月くんが描くからいいや」って感じで作業していますね(笑)。『GANTZ』のときも、妥協せずに派手な画面を作ることを自分に課してはいましたが、今は気楽に可能なかぎりのモブを散らして、どれだけでも派手な演出にできるので、迫力あるシーンづくりに繋がっていると思います。