第二幕:一話や序盤で大切なこととは?
――一話や序盤で読者を惹きつけるために意識されていることを教えてください。
――赤坂先生の作品の面白さの一つにコメディー要素があると思います。意識していることを教えてください。
テンポよく、なるべく明るい空気感で、滑らないように気をつけます。(笑)そのためによく二人喋りの面白いラジオを聴いて、軽快な掛け合いとはどういう構造になっているのか自分なりに研究しています。一人しゃべりのラジオより、掛け合いのあるラジオの方が漫画の参考になります。漫画の肝は吹き出しの中にあるキャラクター同士の掛け合いだと思うので、日常会話の掛け合いの中から面白さを見出したほうがいいと思います。キャラクターを立たせる上でも、一人で喋らせるより、二人で喋らせたほうが、二人のキャラクターが立つので絶対にお得です。また、自分の中で偶発的に生まれたものでも手応えがあったものは自分の武器にするために覚えておいています。
次回は…読者に楽しんでもらうためには?
今、世の中でスタンダードになっているものを踏襲しつつ一段階だけ強く描く意識はしています。例えば「転生もの」のスタンダードでは最初の五ページで、死んで転生した場面から始まります。一方で『【推しの子】』はスタンダードと比べて死ぬタイミングが遅く、過程を強めに描いています。世の中に作品が増えてる中で埋もれないためには、やっていることは既存のものと同じでも、踏み込み方や構造で変化をつけて少しだけ目新しくしなきゃいけないと思っています。
僕は一話からがつんと面白い作品をつくることが苦手なので一巻単位で目を惹くための仕掛けを用意して保険にしています。『【推しの子】』の序盤でやりたかったことは一巻の最後の方の展開だったので、それまでをどうにか面白くするためにアイドルが妊娠して現れたり、主人公が死んだり、結構とがっている要素を極力第一話に詰め込んでみようと考えました。とがっている要素も適切なタイミングであれば物語にできると思ったので読者に情報を伝える順番を試行錯誤しました。例えば、ヒロインの妊娠は忌避される要素ですが、アイの妊娠のタイミングはアイをヒロインとして立てずに、まだ読者が知らない人の段階で妊娠していたからこそ読者に許されたのかもしれません。情報を出すタイミングで参考になるのは『エヴァンゲリオン』の庵野監督です。庵野監督は情報の出す順番や隠すものの取捨選択がうまいからこそ、『エヴァンゲリオン』という物語が神秘的に映っていると思います。