第三幕:読者に楽しんでもらうためには?
――読者に作品の内容がわかりやすく伝わるために気を付けていることを教えてください。
――話を組み立てるうえで考えることと優先順位をお伺いしたいです。
一つ目に大事にしている事は一巻を面白くして、序盤を乗り切るための仕組みづくりです。二つ目はキャラクターです。キャラクターは育てるものなのでキャラクターたちの心情を噓なく丁寧に描いていくことと、キャラクターの持っている要素をすぐに使い切らないことが大切だと思っています。特にメインキャラクターは何度もスポットが当たった話が来るので、抱えてるエピソードやもっている要素を全部出し切ってしまうと、後々つらくなってきます。例えば、『かぐや様』のミコは石上とのエピソードなどはだいぶゆっくり話を進めていました。キャラクターの行動の動機の部分でも同じことが言えます。『【推しの子】』でアクアが一話で復讐を終わらせてしまったら原動力を失って、読者の興味も引けず、どのように話を進めればいいのかわからなくなってしまいます。さらに、溜めてから出した要素のほうが読者に刺さりやすいと思うのでキャラクターの要素の出し惜しみはよい手段だと思います。
――作中に登場する様々なアイテムにはどのような役割があるのでしょうか。
キャラクターデザイン上のアイテムだけではなく、キャラクターの感情を代弁するメタファー、学生時代の思い出の象徴など、ドラマを立ててドラマを象徴するアイテムを作るということを意識しています。例えば、アイのキーホルダーは前世からのさりなと先生の絆・アイというアイドルに対する愛情で繋がっていた二人を表す象徴的なアイテムです。

次回は…キャラクターを立てるとは?
何事も読者がわかっている前提で描いてはならないということです。説明が必要ないものか、一から説明できるものでなければ、テーマとしてはあまりよくないと思います。もちろんターゲットにもよりますが、YJでやる以上は大衆に向けた作品になるので、読者の理解度や前提知識が必要ないものを扱うべきです。僕がYJで活動を始めたときに、エルフが現代社会にやってくるという話をやろうとしたんですが、担当さんに「一般読者はエルフをわかりませんよ」って言われました。最初は「そんなことあるのか?」と思ったのですが、経験を積んだ今なら納得します。例えば僕の祖父は「エルフって何だ?」って言うだろうなと簡単に想像ができるので、読者がわかるというラインを見極めて大切にしています。
表現も同様で、先日バルセロナに編集長たちと行った際に、若者言葉で「マジ?」を意味する「マ?」が誰にも伝わりませんでした。なのでYJでは「マ?」という表現は伝わらない可能性があり、あまり使うべきではないということです。タイトルでも読者が知っているものを入れることは有効です。『かぐや様は告らせたい』のタイトルはかぐや姫という読者が知っているものを使用しています。そのため読者の頭に入りやすい一方で、かぐや“様”という言葉はあんまり聞き覚えがないので目に入った人が気になるポイントもつくれたと思います。